「リーチの量と顧客の質」トレードオフ問題を解消可能
戦略ターゲットを定義してリテールメディアで対象を絞ると、そうしない場合に比べてリーチ数は当然減る。「質を求めた結果、量が不足して獲得顧客数も伸びないのではないか」という疑問に対し、松田氏は芹澤氏の著書『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』(日経BP)の内容を引用しつつ回答する。
同書では「ターゲティング施策が非ターゲティング施策と同じ利益を出すために、パフォーマンスをどれほど向上させる必要があるか」が解説されている。芹澤氏によると、ターゲティング施策でリーチが50%減る場合、非ターゲティング施策と同程度の利益を生むためには、約1.8倍の広告効果を出す必要があるそうだ。
「左の図は、セッションの前半に示したビールカテゴリーの浸透率(上)と、同カテゴリーにおけるパレートの法則を示した図(下)です。二つの図から、市場顧客の約4%がビールカテゴリーの売上の7割を創出していることがわかります。つまり、そもそもターゲットが非常に絞られているというわけです」(松田氏)
「ターゲティング施策は広告効果をマス施策の約1.8倍出す必要がある」「ターゲットは絞られている」この2点を踏まえ、機能系ビールのプロモーションでメディアミックスを行ったところ、次のような結果に至ったという。
テレビCMと営業活動、すなわち非ターゲティング施策に起因する新規購買率(2.9%)に対し、メディアミックスした場合の新規購買率(11.8%)は4.1倍も伸長している。「約1.8倍」と示された指標を大きく上回る数値だ。
日本のリテールメディアが抱える課題
リテールメディアが米国を中心に盛り上がりを見せていることは多くのマーケターの知るところだろう。米国ではウォルマートとアマゾンを筆頭に、圧倒的な購買データ量でリテールメディアとしてのクオリティを担保している現状だ。尚且つ分析の高度化も進んでいるため、アウトプットの質も高いという。
一方「日本におけるリテールメディアの多くは、購買データ量と広告効果の両面で苦戦している」と松田氏。リテールメディアの取り組みが小売企業各社に閉じているため、データの量やアウトプットのレベルが小売企業によって異なり、広告主側の効果検証が非常に困難なようだ。
「カタリナマーケティングジャパンが運営するリテールメディアネットワークでは、日本国内の小売企業各社が保有するリテールメディアをネットワーク化しています。そのため、データ量/アウトプットの質ともに米国型のリテールメディアを再現できているのです」(松田氏)
松田氏は本セッションの総括として、二つのポイントを挙げる。第一のポイントは「商売の法則を理解する」だ。前半に示された購買の原理原則から、自社のブランドを支えている顧客は想像以上に少ないことがわかっただろう。「データを基にカテゴリーの構造を注視する習慣を身に付け、商いの原理原則をインプットしましょう」と松田氏は語る。
第二のポイントは「認知を無駄にしないメディア戦略を構築する」だ。テレビCMのGRPだけを増やしても、購買者数が比例しなかったグラフを思い出してみよう。
「『認知量=実行動数』の思い込みから脱却し、広告反応関数のパターンを理解しながらリテールメディアをミックスすることで、認知を無駄にしないメディア戦略が実現可能です」(松田氏)
最後に松田氏は「自社ブランドの実態やリテールメディアによる課題解決、具体的効果など、これらの内容を含めたご提案に興味のある方は、ぜひ気軽に問い合わせてほしい」と語り、セッションを締めくくった。