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生活者データバンク

Z世代は「ブランド名」を覚えていない?リキッド化する社会で変わる、次世代生活者とブランドの関係

リキッド消費傾向の高い人は、ブランド名を意識しているのか?

 本項では、これまでの結果を踏まえつつ、冒頭で触れた「リキッド消費」に着目します。具体的には、「記憶されるブランド」と「買いたいブランド」の関係を明らかにします。それにより、新たな消費スタイルであるリキッド消費に即した価値観を持つ人々において、ブランドを記憶することが購入意向の醸成につながり得るのかを検証していきます。

 分析に入る前に、リキッド消費について再度補足します。同概念はしばしば、(1)短命性、(2)アクセス・ベース、(3)脱物質的、といった3つの特徴を持つ製品やサービスの普及による、消費行動の変化として捉えられます。他方で、リキッド消費に即した意識や行動の度合いには個人差があり、ある人がリキッド消費の傾向を有する程度を個人の特性として測定する尺度も開発されています。今回は青山学院大学経営学部の久保田進彦教授が開発した「消費の流動性尺度(※3)」を用い、リキッド消費傾向の高い人々(以下、リキッドクラスタ)とそのほかの層を比較します。

各クラスタ(CL)の定義

  1. コンベンショナルCL:社会の変化を感じておらず、これまでと変わらない伝統的な生活を続けている人々
  2. プレカリティCL:社会全体の変化を感じているが、将来に対する不安も抱いており、消費活動が流動化していない人々
  3. リキッドCL:社会全体の変化を感じ、日頃の生活では合理主義的な価値観を抱いており、消費活動も流動化が顕著な人々

 また、「記憶するブランド」と「買いたいブランド」の関係を明らかにする上では、「考慮比率」という考え方を活用します。「考慮比率」とは、久保田教授が提唱する概念であり、思い浮かんだブランドのうち、今後購入したいブランドの割合を表します。今回の分析では、「ヘアケア製品のブランドと言えば」と聞かれて“思い浮かんだブランド”のうち、“買いたいと思うブランド”が占める比率を指します。

 なお、分析にあたっては、世代間の差による影響を排除するため対象をZ世代のみとし、かつヘアケア製品への関心が比較的高い傾向が見られたことから、女性のみに絞ります。

 結果は以下の図の通り、リキッドクラスタにおいては、考慮比率の割合が他のクラスタよりも高くなっています。一方で保留比率(思い浮かぶブランドのうち、買いたくも買いたくないとも思わないブランドの比率)は他のクラスタと比べて低いです。

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 それらの結果は、「頭の中に入っているブランドの大半が購入候補」のブランドであることを示しており、リキッドクラスタの人々は、「そのとき気に入っているブランド」だけを記憶し、自分にとって余計なブランドは覚えていないと解釈することができます。

まとめ

 これまでの分析結果をまとめます。まずZ世代やミレニアル世代は、X世代や58歳以上の人々ほど、ブランドの種類を多く覚えていないという結果が示されました。その一方で、ブランドがどうでもよいわけではなく、自分の頭に真っ先に思い浮かぶブランドを購入したいという考えは他の世代と同様です。また、新たな消費スタイルのリキッド消費傾向を有するリキッドクラスタに焦点を当てると、「そのとき気に入っているブランド」だけを記憶しており、自分にとって必要でないブランドは記憶していない様子がうかがえます。

 冒頭の疑問に立ち戻ると、「(認知を獲得し、記憶させ、思い出してもらう)アプローチはこれから先も有効と言えるのか?」という問いについては、世代を問わず初めに思い出されたブランドが高い購入意向を得ていたことから、現段階ではその通りだと言えそうです。

 二つ目の、「もしそうだとした場合に従来と同様の効果が期待できるのか?」という問いについても、おおむねその通りではありますが、留意すべき点も見えてきています。新たな世代の人々や、リキッド消費の傾向が強い人々は、覚えるブランドの数が限られ、自分が買いたいと思うもの以外はそこに入ることができない可能性が示されました。

 ブランドを提供する立場から見ると逆境のように思えますが、新たな世代やリキッド消費傾向を持つ人々の特性を捉え、苦戦するライバルたちに先んじて有効な手が打てるならば、現在の状況は好機とも言えます。

 一例として、Z世代の人々は合理性を求めてタイパ(タイムパフォーマンス)を重視し、加えて、失敗を避けたがる傾向が指摘されています。他方で、リキッド消費傾向を持つ人々は、流動的で多様な消費を楽しむために、“省力化”のニーズを有するとも言われています。

 書籍や論文、各社の自主企画調査結果などでは、上記のような知見も世の中に蓄積されつつあります。それらを活用し、新たな潮流の理解を深めることは、きっと今後のブランドやコミュニケーションのあるべき姿を再考する一助となるでしょう。

【(株)インテージ産学連携生活者研究プロジェクト 定量調査データ】

調査地域:日本全国
対象者条件:16~65歳の男女
標本抽出方法:インテージ「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ:調査(1)n=5504 調査(2)n=5249 ※いずれも性別・年代を均等に回収
調査実施時期:調査(1)2023年2月2日(水)~2月7日(月)
       調査(2)2023年8月3日(木)~8月8日(火)

【引用文献】
(※1)Bardhi, F., & Eckhardt, G. M. (2017). Liquid consumption. Journal of Consumer Research, 44(3), 582–597.
(※3)久保田 進彦(2022).消費の流動性尺度の開発.青山経営論集 56 (4), 109-129.
久保田 進彦(2022).消費の流動性尺度の拡張と活用.青山経営論集 56 (4), 131-170.

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この記事の著者

伊東 祐貴(イトウ ユウキ)

株式会社インテージ マーケティングパートナー第1本部 ビジネス・ドライブ3部所属

2016年にインテージへ入社。調査企画・分析業務に従事し、顧客企業が抱えるマーケティング課題の解決をサポート。その一方で、産学連携プロジェクトを通じたZ世代及びリキッド消費研究や、リサーチの実践を題材とした大学での講演活動に取り組...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/10/22 09:30 https://markezine.jp/article/detail/47160

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