モトローラ ‐ Styled with Moto
モトローラは、折りたたみ式スマートフォン「motorola razr 50」の発売に合わせて30秒のCM動画を発表しました。動画では、「バットウィング(コウモリの翼)」と呼ばれるモトローラのロゴにインスパイアされたファッションを身に纏ったモデルが、ランウェイやファッション撮影のシーンに登場します。モデルが着用している服は、この商品で展開されている各6色に合わされており、商品とファッションのリンクが表現されています。また背後に流れる音楽も、長らく広告で使用されてきた“Hello Moto”のキャッチフレーズからインスパイアされた楽曲が使用されています。
さて、皆さんはこの動画を見ていかがお感じでしょうか。
実はこの広告動画は、その殆どを人工知能が制作したもの。人の手によるクリエイティブが極力省かれています。実際の制作プロセスでは、モトローラが複数のAIツールを活用し、何パターンもの制作を行い、最終的にいくつかの候補を人的に絞ったとされています。
この事実は驚きをもって視聴者に受け入れられたのですが、これはモトローラが「テクノロジーリーダーであることを伝える」ために、AIというテクノロジーを使い、その技術の高さを立証したこと、に成功の理由があると考えられます。
ブランドポジションとAIの親和性、AI制作の品質の高さが評価されたキャンペーンになりますが、調査でも、人工知能の動画/画像の生成技術の進展という点で、もはや生活者のなかでも、見分けが付かない人が多くなってきていることがわかります。
広告業界内でAIを活用した制作は非常に注目されている分野ですが、モトローラが示したように、AIを活用する制作技術と市場におけるブランドのポジションをどのように照らし合わせてコミュニケーションをしていくかは、今後大事なポイントになっていくと考えられます。
ダヴ ‐ The Code
今回最後の事例として、これまでの事例とは方向性の異なる、ダヴのキャンペーンを挙げさせてください。
ダヴによると、2025年にはオンライン上のコンテンツの90%がAIによって生成されたものになると予測されているようです。とりわけ体型や肌が実際よりも美しく表現されていたり、人物像自体をAIが美しく生成したりした画像はすでに世にあふれており、それが要因となって「実態と離れたビューティースタンダードが生まれてしまっている」と警告を鳴らしました。
そこで、2024年の今年、ボディケア・フェイスケア・ヘアケアのブランドであるダヴは「自ブランドのコミュニケーションにAIを一切使用しない」ということを宣言しました。
キャンペーンビデオでは、”世界で最も美しい女性”というプロンプトから、AIに生成された女性のイメージのシーンが映し出されます。その後のシーンでは、“ダウの広告で定義される、世界で最も美しい女性”とプロンプトを入れると、今度はAIが生成した、ありのままの姿をした様々な女性の姿が映し出され、「What kind of Beauty do we want Al to learn?(AIに知ってほしい本当の美しさはなんですか?)」と視聴者に問いかける内容となっています。
ダヴは過去20年間におよんで「Real Beauty」という言葉を掲げており、多種多様な美に焦点を当て、人々の美に対する自己肯定感を高める支援をしてきたブランドです。本キャンペーンは、長期間におけるブランドの一貫性を示しただけでなく、改めて「美しさ」の定義について多くの議論を呼び、考え直すきっかけを与えました。
今後はこれまでよりもAIが社会に浸透してくることが予想されますが、今回のダウのように、人工知能が社会に与える影響を理解し、ブランドとして明確なスタンスを示すことは、今後求められてくるかも知れません。