高齢化先進国が持つ可能性
最後のテーマとして菊川氏は、今後シニアマーケティングにおいてどのような取り組みをしていくのかを挙げる。
日本ロレアルの前田氏は日本がグローバルにおけるシニアマーケティングの指針になっている状況を紹介する。前提として日本では他国に比べ高齢化が進んでいる。さらに、日本全体の傾向として化粧品に対する期待値や基準値が高い。成分などの機能的価値と使う楽しさなど情緒的価値のどちらも重視し、複合的に判断する傾向があるのだ。特にシニア世代は高度経済成長期に国内外のブランドを体験しており、経験が豊富だ。そのためロレアルグループ全体としても、日本のシニアマーケットを重視しているという。
「ブーマーの世界人口は2030年に約2億人になると予想され、世界の化粧品市場の3分の1を占めるようになります。世界各国でブーマー戦略を作る際には日本市場の取り組みが参考にされる予定です」(前田氏)
たとえば、ロレアルグループ内にはブーマーに特化した戦略・イノベーションを加速するためのブーマーイノベーションセンターというチームがある。この中は日本人も参加している。さらに、日本、中国、香港、台湾、韓国の5市場が参加するサミットでも、日本の取り組みを共有しているそうだ。
「ブーマーをインクルードする動きは日本だけではなく海外でもあります。そこで、何かいい形で発揮できたら」と前田氏は高齢化の先進国だからこそ持つ可能性を提示する。
新たな概念を作れるのがシニア市場
花王の林氏はシニア世代の男性のケア・美容への変化について言及する。顕在化した悩みを解決するだけでなく、より良くなりたい・心地よく過ごしたいという気持ちに寄り添った提案にはまだまだ可能性があると林氏は語る。
「ヘアケアを問題解決ではなく、自分がより良くなるためのものとして捉えていただければもっと活性化できると思います。実際に2024年10月には心地よく過ごすナイトケアルーティンとして『髪を育てるチャージエッセンス』を新発売しました」(林氏)
ヘルスケアや医療の発達、サービスの充実とともに問題解決から前向きさやフレッシュさといったメッセージがシニア世代にも大事になってくる。そう菊川氏は同意しながら、シニア世代でもメンズ美容などこれまでとは違うカテゴリーも出てくるのではないか?と指摘すると、林氏は「ケアという言葉で片付けられないかもしれない」と首肯する。
「新たな価値観や概念を作っていけるのがシニアマーケットの醍醐味。これから一緒に挑戦していければ」と菊川氏が語り、講演を終えた。