価値観や趣味嗜好を軸にデータを収集・分析
ここから榎本氏はより詳細に、値上げによる生活者の購買行動の変化を、「SCI(全国消費者パネル調査)」のデータから紹介した。SCIは、15~79歳の男女5万3,600人から毎日の買い物情報を収集するとともに、年1回アンケート調査(買い物の背景にある価値観・ライフスタイルに関する意識調査)を実施。それらのアンケート結果を基にした107項目の価値観属性(価値観DNA)と、購買データを紐づけている。
価値観や趣味嗜好といった心理的変数を分析軸に設定できるため、どんな価値観や趣味嗜好を持つ人が、どんな購買行動を起こしているのかという、これまで見られなかった部分まで読み解けるようになっている。
「生活者を分類する方法は様々あります。たとえば、性・年代などのデモグラフィック変数、国や地域などの地理的変数、購入量や頻度などの行動変数はよく知られている分類軸です。比較をした際に差異が捉えやすい分析軸を探すことが肝要ですが、これらでは差異が見えづらいという面がありました」(榎本氏)
榎本氏は、心理的変数を分析軸にすることで、新たな分析結果を導き出せた例として、図3を提示した。
商品AとBの購買データを、性別、年代別、価値観クラスター別で分析。性別と年代別で見ると、商品AとBの購入者は大差ないという結論に至るが、価値観クラスター別では両商品の購入者は違う価値観を持った人だとわかる。
次に榎本氏は、心理的変数を用いて、生活者の購買タイプを「慎重購買型」「直感購買型」の2つに分けて分析を行った事例を紹介した。
「慎重購買型」「直感購買型」で分かれる消費志向
「慎重購買型」では、堅実消費、チラシ活用、特売、安物買いといったキーワードが挙げられ、該当者は価格志向を持つ。その根幹にあるパーソナリティとしては「慎重で現実的」「現在と未来のバランスを重視する」などがある。主に50代以上の女性が中心で、職業で見るとパート・アルバイトや専業主婦といった属性の人が多い傾向が見られた。
直感購買型では、衝動買い、ブランド志向、特別感、新製品などがキーワードとなり、世の中の流行に敏感で、グルメ情報を追っている該当者が多いという。好奇心があり、自分を優先する、今を重視するといった価値観も見られる。男女比ではやや男性が多い程度だが、職業で見ると正社員が57%で比較的「自分で使えるお金」に余裕がある人が多い傾向にある。
次に榎本氏は、値上げが続く状況下での買い物金額の推移(図5)を紹介。1人あたりの買い物金額の変化を見ると、2022年~2024年の3年間において、直感購買型は108.3%、慎重購買型は104.7%だった。慎重購買型も値上げの波には逆らえず、買い物金額は増加しているが、やはり直感購買型のほうが買い物金額の増加幅は大きいことがわかる結果となった。