両タイプともドラッグストアでの購入が増加
続いて榎本氏が紹介したのは、買い物金額を「買い物回数」「1回の買い物での購入点数」「個数単価」という3つの要因に分解したときの結果(図6)だ。
「慎重購買型のほうが、買い物回数や購入点数を抑えています。このような点から、節約を頑張っていることが見受けられます。一方で個数単価を見ると、直感購買型も慎重購買型も同じくらい増加しています。慎重購買型の人でも、単価を抑えた買い物をすることがなかなか難しくなっている状況がうかがえる結果です」(榎本氏)
次に紹介したのは、購入業態別の買い物回数の変化(図7)だ。図7からは、慎重購買型、直感購買型ともに、コンビニでの買い物回数は減少していることがわかった。コンビニはスーパーやドラッグストアと比べ単価が高いため、買い物回数を減らしていると考えられる。一方スーパーでの買い物は、慎重購買型は減少、直感購買型は増加と違いが出た。そして、ドラッグストアでの買い物回数は、両タイプとも増加している点が特徴的だ。
さらにインテージでは、食料品、飲料、日用品・雑貨、化粧品、ヘルスケアと5つのカテゴリーに商品を分類し、購入カテゴリー別に買い物金額の変化を分析(図7)。その結果、すべてのカテゴリーにおいて、直感購買型のほうが買い物の金額が大きく増加していることがわかる。一方で慎重購買型は、2023年4~8月に化粧品の買い物金額が約7.6%と大きく増加した傾向が見られた。
「2023年5月はコロナが第5類感染症に移行した時期にあたり、慎重購買型の人の間でも化粧品の需要が増えたのだと考えられます」(榎本氏)
「価値観」軸での分類が新たな示唆をもたらす
セッション前半で榎本氏は、節約行動にともない、「ナショナルブランド商品からプライベートブランド商品へのスイッチ」が一定起きていることを指摘した。特に慎重購買型では、カレーやビール類でプライベートブランドの売上構成比が増えた。しかし直感購買型を見てみると、この3年間でも構成比は変わっていない。榎本氏はビール類の購入個数の前年比ランキングを例に、次のように説明した。
「ビール類の中で購入個数が前年比増の商品を見ると、興味深い結果が浮き彫りになります。慎重購買型の上位3商品がプライベートブランドの商品だったのです。4位以下を見ても、6缶、24缶のケース商品がランクインしました。プライベートブランドを買うことで、単価を抑えようと努力している様子が垣間見えます。一方、直感購買型のランキングを見ると、単価が高い商品、1缶商品が多くランクインしました。ビール類では、両タイプで買っているものの違いが明確に出てきたと言えます」(榎本氏)
最後に榎本氏は次のようにセッションをまとめた。
「2022年以降、値上げラッシュが続いています。生活者は価格に敏感になり、節約行動に注目が集まっている状況です。ただ、その中で生活者全員が共通して節約をしているのかというと、そうではありません。慎重購買型の人には買い物回数や購入点数を減らしたり、プライベートブランドを買ったり、低単価商品の購入によって節約につなげたりしている様子が見て取れました。一方、直感購買型の人は値上げ前と比べて大きく購買行動を変えているわけではないことがわかりました。このように、生活者の価値観による分類は、値上げ時の購買行動の違いを理解する上で重要な視点となるでしょう」(榎本氏)