パイの実リニューアルでは反省を活かし顧客起点のマーケを体現
廣澤:「ラ・フランス」事件を経てマーケティングの向き合い方が変わった久保田さんがかかわったプロジェクトとして、2024年のパイの実のリニューアルがあります。2024年10月末までの累計出荷実績は、前年同期比121%を達成するなど、大きな成功体験になったと思いますが、このときはこれまでと何を変えましたか。
久保田:まずお客様の声を愚直に聞くようにしました。また、聞く相手も以前と変化していて、前は今食べていない人に調査をかけていましたが、リニューアルのときはパイの実のロイヤルユーザーである方にとにかく話を聞きました。
そうすると「パイの実はチョコ菓子じゃなくてパイ菓子」と言ってくれる方が多くいて、それが目から鱗の発見でした。ロッテの売り上げ区分でいうとパイの実はチョコレートに分類され、規約上の区分としても準チョコレート菓子になります。でも、お客様はそもそもパイの実をチョコレート菓子と思っていなかった。これに気づいたタイミングで、パイにフォーカスを当てたリニューアルにしようと決めました。
廣澤:会社も気づけていない重要なインサイトに気づけたことが、リニューアル成功につながっているのですね。リニューアルを提案した時の社内の反応はいかがでしたか。
久保田:良いねと言ってくださる方もいた一方で、「パイの実はチョコレートが真髄のお菓子じゃないのか」と反発されることもありました。
廣澤:社内の反発もある中でアイデアを通すというのは苦労がともなうと思うのですが、どのような説得を行ったのでしょうか。
久保田:開発にかかわるすべての部門に片っ端から直接説得しに行きました。経営層にはブランド戦略自体をプレゼンして、生産部門に関しても工場に出向いて担当の方と膝を突き合わせて議論しました。直接関係者に話に行ったことで理解も進んで、その後出したパイだけの「パイのみ」など、これまででは出せないような商品が続々出せるようになりましたね。
外に出て、自分以外の声に耳を傾けることでアイデアを整理する
廣澤:3年間で10近い商品を出してきたわけですが、当然生みの苦しみというのもあったと思います。その生みの苦しみはどう乗り越えましたか。

久保田:2つあって、1つは自分の中に答えがあることがあまりないので、先ほど話した広く視野を広げて、外に出向くことですね。そうすることで、消費者がどういう行動をしているか、商品・サービスがどのように売れていくのかが整理できています。
もう1つは1人で考えすぎないことですね。1人で考えを突き詰めすぎた結果がラ・フランス事件だったので、できるだけ周りの声を大事にしています。あと、お菓子の場合自分の家族や友達など、近くに消費者がいるので、その人たちがどういう志向にあるかは普段の会話で参考にさせてもらっています。
廣澤:ここまで、久保田さんのお仕事から様々なヒントを得ることができました。最後に、若手のビジネスパーソン、マーケターに向けてアドバイスとなるような一言をお願いできますか。
久保田:仕事と主体的に向き合えるマインドを持つことが、大事だと思っています。僕自身は趣味の一部くらいの気持ちで仕事に臨んでいますが、最初は上司に与えられた仕事がやりたくなくて嫌だなと思う瞬間もありました。
でも、パイの実のリニューアルで自ら工場に出向いてみる、顧客の声を直接聞くなど、主体的に動いている瞬間ってスイッチも入るし責任や信念も伴ってきます。与えられた仕事の中で、自分のやりたいことに持っていくにはどうすればいいのか、考えていくとよいと思います。
廣澤:現状の仕事の中に、自分の信念をもってできる仕事がないという方もいると思うのですが、そういう方の場合はどうすればいいと思いますか。
久保田:自分の好きなものや趣味があると思うので、それと仕事の共通点を見つけて取り入れてみるとよいと思います。