従来の枠にとらわれない表現でOOHを話題化の熱源に
続いて紹介するのは、キリンが2024年11月に新宿駅で実施した「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」の広告です。
同広告のユニークだった点として、1日目と2日目で展開された広告のクリエイティブが異なっていたことが挙げられます。1日目の広告では起用タレントが描かれたビジュアルとともに「ただいま準備中」のアナウンスが掲載され、翌日以降の展開を匂わせる内容でした。

しかし2日目には、同じ場所に大きな水槽が登場。大自然のクリエイティブが背景に描かれ、その水槽の中には商品が置かれており、「杜の香」という商品コンセプトを表現していました。
タレントが描かれた広告を1日で外し、水槽を登場させるという商品の世界観を表現することに振り切った思い切りの良さには驚かされました。
また、アメアスポーツジャパンが2024年12月に新宿駅で掲出した「ARC’TERYX(アークテリクス)」の広告も印象的でした。同広告は、近くで見ると材質が普通とは異なることに気付かされます。
そして広告の左下には、広告掲載終了後に新たなプロダクトに生まれ変わる予定である旨の記載が。通常、掲出後には廃棄される広告素材に新たな価値を見出す、SDGsの観点からも意義深い取り組みでした。
これら二つの事例からもわかるように、「従来の枠にとらわれない表現方法」が増えています。OOHは今後、単なる認知媒体としてではなく、話題を生む熱源として機能していくのかもしれません。
「場所」や「時期」自体をメッセージの一部に組み込む
2024年8月に東京国際空港(羽田空港)で実施された、アース製薬の「アースジェット」と「ゴキジェット」の広告も場所と季節の特性をうまく活かしたことで話題となっていました。
同広告は、羽田空港第1ターミナル(国内線)の入口近くで展開。「実家の虫はデカいぞ!」と大きく描かれたビジュアルで、お盆に東京から実家に帰省する人々を意識した内容となっています。

「虫との出会い」という、時期的にホットな内容をユーモラスに表現している点が印象的で、私が広告を見に現地を訪れた際には、男女2人組が写真を撮って「家で見せよう」と話していました。
この事例のように屋外広告では、「場所」や「時期」自体を、メッセージの重要な一部として機能させることができます。場所や時期の特性や人々の行動パターンを深く理解した上で広告展開をすると、より効果的なプロモーションが行えるかもしれません。
また、2024年下半期には渋谷エリアで二つの縦長屋外ビジョンが稼働を開始しました。これまでは屋外ビジョンといえば横長が主流だったため、この新設は注目すべき変化だと言えるでしょう。
スマートフォンの普及により、人々は日常的に縦画面での情報消費に慣れ親しんでいます。また、SNSやショート動画などの縦型コンテンツとの親和性も高いです。これらの理由から“縦長コンテンツ”は今の時代の広告として相性が良いのではないかと考えています。
(右)同年9月から稼働している「KEIO MIRARERU VISION」
実際、縦長ビジョンの進出によりクリエイティブ面での可能性も広がっています。渋谷センター街ヒットビジョンで2024年12月に展開されたNetflixシリーズ「イカゲーム」シーズン2の広告では、作中に出てくる“かくれんぼ”が体感できる演出に。人物などを実寸大以上で表示したことで、強いインパクトを与えることに成功していました。

2025年もどのような広告に出会えるか、楽しみですね。
