知識やスキルはあくまで手段。大事なのは価値を考え続けること
MZ:自分自身の便益と独自性を考えることが重要なんですね。社内のキャリア面談や転職活動に活かせそうですが、そうした機会がなくても、この観点を用いると自分の振り返りになりますね。
西口:その通りです。自分は誰に「助かる」「嬉しい」などと思われているのか、また他の人には提供できないものを生みだせているだろうか。こうした視点から、自分のやるべきことや今後の目標を考えてみるのは、どんなタイミングでも役に立つはずです。
ビジネスは、マーケティングと同じように価値を見出してくれる顧客を見つけなければ、対価は得られません。個人のキャリアも同じで、重要なのは顧客を見つけて価値を提案し、それを成立させ続けることです。
MZ:理想は、経験を積むとともに知識やスキルを磨いて、顧客に対して生み出せる価値を大きくしていくことですね。
西口:はい。ただ、それだけでは十分ではありません。なぜなら知識やスキルはいわば「HOW(手段)」なので、時代や状況に応じて変化してしまうからです。
新しい知識やスキルを身につけることでビジネスの実力が付き、キャリアが磨かれていきますが、いったん成立した価値も顧客が手にしたとたんに変わっていきます。その瞬間から新しさが失われ、より新しい価値へのチャンスが出てくるのです。
そして、顧客自身も変わり続けています。だから、キャリアにおいても「誰に、どんな価値を作り得るのか」のWHOとWHATを常に考え続ける必要があります。
人からいただく感謝は、大きなモチベーションになる
西口:さらに、価値の成立を目指すことはキャリア形成だけでなく、仕事や人生の意義を見出すことにも結びつきます。
基本的に、人間というのは何かの価値を生み出して誰かを幸せにする、誰かに評価してもらう、もしくは誰かに感謝されることによって充実感を感じる生き物です。それによって、自分の存在意義を感じ、生きる意味を見出せます。
長い歴史を見ても、周囲の人々に便益と独自性を提案し、価値を認めてもらって信頼関係を築くことで、食糧や安全を手に入れ協力して生きてこられました。仮にわかりやすいメリットが介在せずとも、「あなたと話しているとホッとする」「家族でよかった/友達でよかった」と思われたら、それは価値を提供しているといえます。また、自分の存在意義を感じることにもつながります。
その反対に、自分は何の価値も生み出せていないと自覚した時、人は絶望を感じます。
MZ:確かに、その状態が続くといい仕事はできないですね。
西口:ですから仕事でやる気がなくなるのは、誰にも喜ばれず、価値創造への貢献が見えない時です。誰かの役に立っていることが見えるからこそ頑張れるし、モチベーションも上がります。
「この商品、すごくよかったよ。ありがとう」という顧客のひと言で、やる気は一気に上がります。顧客がいて、その方々が自分たちのプロダクトに価値を認めていると確信できることは、働く上で非常に重要です。顧客と価値の考え方を、ぜひ充実した仕事人生にも活かしていただけたらと思います。
西口氏のマーケティング入門連載【第23回】はこちら!