WHOとWHATの考え方は、キャリア形成にも役立つ
MZ:確かにそうですね。私も、自分が担当した記事に反響があったらとても嬉しいです。
西口:そうですよね。裏を返すと、どんな業種や職務の方でも、自分の働きが顧客に貢献していないと感じるのは、とてもつらいはずです。さらにBtoBのプロダクトのように、実際の顧客であるエンドユーザーに届くまでに複数の企業が介在する場合、顧客が見えにくくなることは往々にしてあるでしょう。
そんな時こそ、「自分が取り組んでいることが誰のどんな価値につながるか」という価値創出の指針に立ち返ることで、思考がクリアになります。そのつながりをひも解いて、自分の仕事が誰の価値になっているかを見出せれば、モヤモヤしている現状を打破するきっかけになると思います。
また、その誰か、つまり顧客にもっと喜んでいただくためにはどうすべきかを考えていくと、現状の動きを最適化する観点が見つかり、何らかの成果につながるでしょう。
MZ:自分の働きが誰に対してなのかというWHOと、それがどんな価値につながっているのかというWHATをしっかりつかむことが大事なのですね。
西口:その通りです。そして、WHOとWHATの考え方は、働く皆さん個々人のキャリア形成にも役立ちます。
MZ:キャリア形成ですか? 転職といった話でしょうか?
西口:転職までいかなくても、役割の変更や部署移動もあるでしょうし、転職を飛び越えてフリーランスや起業という道もあると思います。いずれにしても、自分が「どんな顧客のために何ができるか」という話です。
自分の顧客は誰で、自分の「便益と独自性」は何か?
西口:最近は、マーケティング部門ではなくてもマーケティングに興味を持つ方が増えていますよね。前回の記事で「ビジネスに関わる人は全員マーケティング活動をしている」と述べましたが、さらにマーケティングを突き詰めていくと、個々人のキャリア形成の話につながります。
この連載は「マーケティング入門」と銘打っているので、読者にはきっと若手の方が多いでしょう。マーケティングという定義があいまいなだけに、マーケターのキャリアも整備されているわけではありません。
マーケティング部やマーケターという職名がないままに、社内の各所にマーケティング業務が分散している企業もあります。そうした環境の中で、自分のキャリアをこれからどう磨いていけばいいのか悩む人もいるかもしれません。
MZ:そうですね。MarkeZineでもたびたびキャリアをテーマとした記事を掲載しますが、一定の反響があります。
西口:キャリアに迷うとき、「価値」と「顧客」という観点から考えてみると、自分のやるべきことや進むべき道が見えてきます。
社会で働くこととは、誰かに対してプラスになる「便益」を提供し続けることです。その相手は会社かもしれませんし、個人の顧客かもしれません。もし、今の自分は提供できる便益が弱いと感じるのであれば、自分が提供できるさらなる便益を見つけ出し、磨き上げていく必要があります。
また、同じような便益を提供できる人が多ければ競争が激化してしまうので、顧客に「他の人には代えられない、あなたに任せたい」と思われる「独自性」も必要です。