マーケティング力とは、何だろうか
――マーケティングとは、顧客の問題解決である。日本企業の多くは、その大前提から見直す必要があるということですね。
入山:はい。実際、日本企業はプロダクトアウトの思考が強いですよね。値上げに踏み切れない理由もここにあります。自社の製品・サービスが世の中の問題を解決できていれば、価格も上げられるはずですから。
最初は、ほとんどの企業がマーケットインでビジネスを興します。ですが、製品・サービスが固まり成熟してくると、生産管理やコスト調整のほうが主要となり、顧客の問題は前提のものとされ、見られなくなってしまう。そうなると、社会や環境が変わり、顧客の問題が変わったときに対応できないのです。
たとえば、自慢に聞こえてしまうかもしれませんが、私は自分で手掛けた単著書籍は全部ベストセラーにしています。「なぜベストセラーを出せるんですか?」とよく聞かれるのですが、答えはシンプルで「多くの人に読んでもらうという前提で企画しているから」なんです。要は、世の中の人々が望んでいるものを探し、その望みに対して今足りていないものを考えて、そのギャップを埋めているわけですね。完全にマーケットインの思考です。

―― それは先生にマーケティングのセンスがあるからなのでは、と思ってしまうのですが……。
入山:もちろんマーケティングの才がある方はいらっしゃいますが、私はマーケティング力をセンスの有無で語りたくないのです。マーケティングは、基本は努力だと思っています。
早稲田ビジネススクールでも、私は徹底的に学生のマーケティング力を鍛えます。本校に通っている学生は、大半が大企業に勤めている30代半ばのビジネスパーソンなのですが、みんな最初は本当にプレゼンが下手なんです。聞いていて、全然おもしろくない。
理由はプレゼンを聞く人の立場になって話をしていないからです。これもつまりは彼ら・彼女らにマーケティング力がないということに行き着きます。「“自分が話す” という感覚ではなく“話を聞いてもらう” という感覚を持ちなさい」と、何時間もプレゼンの練習をしてから、最終論文の発表に入るんですよ。
世の中や顧客が抱えている問題は何かを常に考え、相手の立場になり、一歩先回りして問題解決を考える。マーケティング力とは、その思考量、つまり基本は努力だと考えます。