社会心理学から新しいマーケティングの視点・アイデアを得る
新しい製品を開発したい時、これまでにない斬新なマーケティング戦略のアイデアを得たい時、読者の皆さんはどうされているでしょうか。同じ会社内の、同じ部署の、慣れ親しんだチーム内で深い議論をすることも、もちろんとても有用です。
しかし、まったく新しい発想を得たい時や大きな改革をしたい時などには、異なった業種・立場で仕事をしている人と話すことも大切です。自社や自分が置かれている環境を相対化することによって、目から鱗が落ちるように、これまですっかり見落としていた重要な切り口に気づくこともあるでしょう。
つまり、マーケティングの専門家がマーケティング以外の知識を学び活用することには、大きな意義があるといえます。このような観点から『マーケティングジャーナル』Vol.45,No.1(2025年1月10日発行)では、「社会心理学とマーケティング」と題した特集を組みました。今後のマーケティング研究に大きな示唆をもたらすであろうトピックを選定し、各トピックの第一人者である社会心理学者の論文を集めました。
消費者の食行動に現れるアイデンティティや、潜在的な態度の測定
名古屋大学の唐沢穣教授らによる共著論文「What You Eat Reveals Who You Are:Food Identity and Its Value Implications in Consumer Behavior(和文PDFダウンロード)」では、食行動に現れる消費者のアイデンティティを明らかにしています。
私たちは、「肉を食べる人は情熱的」「野菜を食べる人は自制的」といったように、食行動に付随したステレオタイプを有しています。本論文では、食事は消費者にとって単に食欲を満たすためだけのものでなく、「自分らしさ」が現れるものであることが論じられるとともに、食行動のアイデンティティを測定するための尺度が提唱されています。

東洋大学の北村英哉教授による論文「潜在態度の測定をめぐる歴史と現況」では、潜在的態度(implicit attitude)という概念と、その測定について詳しく論じられています。
消費者行動研究では、消費者の「態度(例:製品の評価)」と「行動(例:購買)」は、必ずしも一致しないことが知られています。その理由の一つとして、消費者が調査で回答する製品評価(顕在的な態度)は社会的望ましさの影響を受けており、消費者の本来の態度ではないことが挙げられます。
たとえば、本当は安い製品を好ましく思っているけれども、調査では「環境配慮型の製品が好ましい」と答えたりします。本論文では、このような表明されにくい態度を把握することの重要性と、その測定方法が詳細に紹介されています。