“データドリブン経営”実現のヒント
「データドリブン経営」という言葉が普及しだしてもう10年以上経つのではないでしょうか。クラウド技術の進化、IoTなどの普及によって、あらゆるビジネスシーンでデータ活用が求められるようになってきました。一方で、現場の声を聞けば「社内にデータを扱える人材がいない」「言うほど実際はやれていない」といった課題感をよく耳にします。
元々企業には売上データや顧客データ、在庫データなどが蓄積されていましたが、「データ活用はシステム部門に任せておけばいい」と放置されるケースが少なくありませんでした。ところが、「もっと高度にデータを生かして意思決定のスピードを上げたい」「業務効率化を図りたい」という意識が高まり、“データドリブン”という言葉がにわかに注目され始めたのです。
しかし実際のところ、データドリブン組織を確立できている企業はごく一部にとどまり、多くの企業は「やり方がわからない」「人材が確保できない」「データ分析をどの部署の責任でやるのかが曖昧」といった問題に直面しています。特に悩みとして大きいのが「自社にデータを扱える専門人材がいない(=人材不足)」「データを活用しようという文化が育っていない(=文化不足)」という点でしょう。
こうした“人材なし・文化なし”の状態をどう乗り越えるかにフォーカスし、社内教育と人材育成、組織づくりの観点から考えてみたいと思います。データドリブン経営を目指す企業の経営者やDX推進担当の方々が、まず取り組むべきステップは何なのか。そのヒントを少しでも提供できれば幸いです。
なぜ“人材不足”は起こるのか?
そもそもデータサイエンスやビッグデータ解析などのスキルを持った人材は、近年の市場ニーズが非常に高いため、採用競争が激化しています。大企業やITベンダーが積極的に確保を進める中、中小企業や地方企業が即戦力を採用するのは難しいのが現実です。
また日本企業では専門職と総合職との給与水準の差から既存人材と合わせなくてはいけないという社内都合により、そもそも社内に入れることもできないなんてことも少なくありません。結果として「データ人材が見つからない」という状況に陥りやすくなってしまいます。
たとえ高いスキルを持った人材を外部から採用できたとしても、「社内で孤立してしまう」問題も存在します。データ分析者がどれほど専門知識を持っていても、経営層や現場部門との連携がうまくとれなければ、その分析結果が意思決定に生かされず、“絵に描いた餅”になってしまいます。そうなればデータ分析者もモチベーションを失い、企業側としても大きな投資をムダにしてしまいかねません。
こうした現状を踏まえると、多くの日本企業にとって「データ人材を外部から連れてくる」だけでは限界があることがわかります。むしろ、「自社で育てる」という選択肢を考えざるを得ない、あるいはそれが最適解となるケースが増えているのです。専門家を雇用しようにもコストが大きい一方、既存社員がデータに関する基礎知識を身につけ、少しずつ実務に生かせるようになるのが理想と言えます。
“文化”がないとはどういうことか?
「データドリブン文化がない」と聞くと、とても大げさな印象を持つかもしれませんが、要は「普段の業務でデータを使う習慣がまったくない」「ツールを導入しても誰も興味を示さない」という状態です。
会議でアイデアを検討する際も「経験や勘」「なんとなくのフィーリング」で決まってしまい、データを参照する場面がほとんどない。それゆえ、データを提供しようとする人もいなければ、求める人もいない。こうして“データの存在意義が感じられない”ままになってしまうわけです。
文化を根付かせるためには「データを扱うメリットを体感する」ことが何より重要です。たとえば、ある企業では、売上データや在庫データを使いBIを作成して、店長やマネージャーがリアルタイムで確認できるようにしたところ、店舗間の売れ筋比較や発注数の最適化が進み、ムダな在庫や販売機会ロスが激減したという事例があります。
こうした成果を“目に見える形”で社内共有すると、「データがあるとこんなに便利なんだ」と気づく社員が増え、徐々に「データを使うのが当たり前」という空気が生まれます。
一方で、「経営トップがデータ活用を口では推奨していても、普段の意思決定にデータを使っていない」といったケースだと、なかなか文化は育たないでしょう。結局のところ、トップの行動が社員にとって“真のメッセージ”になるため、経営陣が真剣にデータを用いた議論を実践し、結果を社内にフィードバックし続けることが必要です。