「レンガ積み」で終わるな。マーケティングとは「いい商品の定義」を変えること
──戦略や目的の重要性は理解できましたが、日々の業務に追われる現場のマーケターは、どう意識を変えればよいのでしょうか。
マーケティングの仕事をしていると、つい「広告を作ること」や「商品を届けること」が仕事だと思ってしまいがちです。しかし、それは「レンガ職人」の話と同じです。

レンガ職人に「何をしているのか」と尋ねると、ある人は「レンガを積んでいる」と答え、ある人は「壁を作っている」と答えます。しかし、最も視座の高い職人は「俺たちは大聖堂を建てているんだ。この街の誇りになるような」と答えるといいます。
マーケティングにおいて、広告制作やメディアプランニングは「レンガ積み」や「壁作り」に過ぎません。では、マーケターにとっての「大聖堂」とは何か。それは「市場創造」です。
市場創造とは、新しいテクノロジーを発明することではなく、「いい商品の定義を変えること」。新しいベネフィットを提案し、顧客の認識を変容させるのです。
「レンガ」や「壁」は目に見えますが、まだ存在しない市場は目に見えません。西田幾多郎の言葉を借りれば「形なき形を見て、声なき声を聞く」力が求められます。
営業や物流など、他の機能では代替できないマーケティングの役割を果たすためには、ただ作業をこなすのではなく、自分がどのような世界を再構築しようとしているのか、その概念創出に自覚的でなければなりません。
2026年を生きるマーケターへの提言
──最後に、マーケターに向けてアドバイスをお願いします。
「自分の知能の個性を知ろう」ということは大事なように思います。多くの陸上選手は、自分が短距離型なのか長距離型なのか、自らの身体能力を熟知していることでしょう。彼らにとって体が商売道具だからです。同様に、絵描きは自分の筆の特性を知っています。
では、概念を扱い、知能を商売道具とするマーケターは、自分の「知能」についてどれだけ知っているでしょうか。自分がどのように世界を再構築しているのか、どんなバイアスを持っているのか。どんな筆で、世界というキャンバスに絵を描こうとしているのか。それを知らずに仕事をするのは、少し危なっかしい。
ここで再びAIの話に戻ります。AIは、自分の思考の癖を映し出す鏡になります。AIと対話し、AIのアウトプットと自分の考えを比較することで、「なぜ自分はそう考えたのか」「どんな独自の視点があるのか」を客観視できます。
それは、自身の強みを理解することであり、自分自身の「取り扱い説明書」を作ることでもあります。自分の力がうまく使える状態を見つけられれば、仕事はもっと楽しくなるはずです。スポーツカーとして生まれたなら荷物を運ぶのではなくサーキットを走るべきだし、トラックとして生まれたなら重い荷物を運ぶことに喜びを見出せるはずです。
2026年に向けて、私自身もまだ研究の途中ですが、「戦略」と「マーケティング」を論理的に接続する試みを進めています。これまで分断されがちだった「資源配分」と「認識変容」をつなぐことで、より強力で消費者に満足を提供できる市場創造が可能になると信じています。
AIという新しい知能を良きパートナーとし、フレームワークという共通言語で対話し、そして自分自身の知性の輪郭をはっきりと掴むこと。それが、これからの時代に私たちが「世界を再構築」し、市場創造を成すための鍵になるでしょう。
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