見込み支援者(サポ―ター)との関係構築が重要に
天野氏は、早稲田大学の恩藏直人教授とADK R3プロジェクトが開発した「R3コミュニケーション」の考え方を引用し、一般消費者の中でブランドに好意的な見込み支援者(サポーター)との関係構築の重要性に言及する。
R3コミュニケーションとは、従来の企業と一般消費者の「二者間」で行われるコミュニケーションだけでなく、企業とサポーターとの関係構築から波及する消費者同士のコミュニケーションを加えたフレームだ。

出典『R3コミュニケーション―消費者との「協働」による新しいコミュニケーションの可能性』恩藏直人+ADK R3プロジェクト(共著、宣伝会議刊)
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このフレームワークにおいて重要なのが、サポーターによる情報拡散の役割である。サポーターなどのユーザーからの自発的な投稿(UGC)は、信頼性の高い情報として注目されており、購買行動にも影響を与えている。
ホットリンクのUGC調査(2024年12月5日発表)によると、商品やサービスを購入(利用)する際、企業が運営する公式SNSアカウントからの情報よりも、SNS上の口コミやインフルエンサーによる口コミのほうが参考情報として多くの人に利用されている。
サポーターとの関係構築のための手段として、天野氏は「インフルエンサーとのタイアップ」や「ユーザー投稿キャンペーン」などを挙げる。「企業側の発信の精度を高めることも大事ですが、UGCを増やしていくことも並行して考えていく必要があります」(天野氏)
2025年以降は「引き算」「クリエイターとの協業」「AI活用」が鍵
ショート動画の活用が次のステージへと移行しつつある中、2025年以降に注目すべき取り組みについて聞いたところ、三者三様の見解が得られた。

天野氏は「引き算」の重要性を強調する。同氏も審査員を務めたビジネスや社会にインパクトを与えたTikTok広告を表彰する「TikTok for Business Japan Awards 2024 Creative Category」では、いわゆるショート動画らしい作りではなく、企業やブランドのオーセンティシティ(真正性)を活かした「引き算」のクリエイティブがグランプリを獲得している。これまでのアテンションを集めるための「足し算」のアプローチをするのではなく、ブランドや製品の特性を伝えられるよう考え抜いた上で、洗練されたクリエイティブを作ることが重要だと指摘する。
鈴木氏は「クリエイターとの協業」に注目する。企業やブランドの商品の魅力を短時間で伝える手法として、ショート動画とクリエイター活用は相性がいい。「ショート動画の中でも、クリエイターとの協業は今後さらに重要になるでしょう。単にオーガニックでクリエイターと投稿するだけでなく、それを広告として活用し、事業貢献まで見ていく一連の流れが増えています」(鈴木氏)
金丸氏は「AI活用」による効率化を挙げる。「AIを活用して静止画から動画を作るなど、必要なクリエイティブ量を効率的に生産するスキームが重要になるでしょう。コストと時間の課題をテクノロジーで解決できると期待しています」(金丸氏)
企業のショート動画活用は「投稿して終わり」から事業貢献を重視する段階になっている。2025年以降は「引き算」「クリエイターとの協業」「AI活用」が鍵となりそうだ。企業は長期的な視点でユーザーとの関係構築を図り、ショート動画を戦略的に活用することで事業貢献を実現できるだろう。