※本記事は、2025年5月刊行の『MarkeZine』(雑誌)113号に掲載したものです
【特集】“テレビ”はどうなる?
─ テレビは「主」から「従」へ 横山隆治氏が考える、脱“テレビ1強”時代の広告コミュニケーション
─ オンオフ統合バイイングでテレビCMに閉じない展開を 「日テレNEWS NNN」が目指す世界(本記事)
─ 先駆者ABEMAに聞くCTV市場 テレビの現在地と未来は、マルチスクリーン化でどう変わるのか
─ ショート動画×テレビCMのプランニングは生活者を主語にする。博報堂横山氏に学ぶ考え方
伝送路の多様化にテレビ局はどう対応すべきか
──テレビを取り巻く環境は変化し続けています。テレビ局に勤める巽さんが感じる課題やお取り組みについて教えてください。
テレビ局はビジネスの大きな変化の中にいますが、私たちがその変化にしっかりついていけているとはまだ言えない状況だと思います。テレビのコンテンツパワーを変化に対応できるようにした上で、事業として整えていく必要があると考えています。
具体的に申し上げると、従来は、コンテンツホルダー(テレビ局)とコンテンツ消費者(視聴者)はテレビという単一のプラットフォームを通じて一方向的につながっていました。現在デジタル化の進展により、この構造は複雑化し、双方向性が増しています。コンテンツホルダーとコンテンツ消費者をつなぐ伝送路の多様化が急速に進んでいるのです。消費者の興味や生活スタイルの多様化に加え、デジタル技術の利便性向上によって、この流れはさらに加速していくでしょう。

2001年入社。営業局(スポット部)、報道局(社会部等)を経て、再び営業局(スポット部、営業推進部)。22年6月(旧)ICTビジネス局に異動。組織改編により23年6月総合編成センターの配信戦略班に異動、今に至る。「日テレNEWS NNN」のニュース配信事業担当の他、TVerなど日本テレビのAVOD事業、YouTube配信などを担当。
以前から顕在化している課題ですが、伝送路の多様化により、従来の商流パイプやコンテンツ消費ルートは細くなっています。コンテンツホルダーは視聴者リーチを確保するためにコンテンツを多様なプラットフォームに分散して配信するようになりましたが、他社プラットフォームを利用する場合、収益分配などが発生します。皮肉なことに、コンテンツホルダーがデジタル対応を進めれば進めるほど、収益性が低下するという構造的な問題に直面する傾向にあるのです。さらに、コンテンツの権利処理コストも増加するという負のスパイラルに陥りやすい状況だと言えるでしょう。
一方、広告主様側も既存商流のコンテンツリーチが減少するにつれて、広告メッセージのリーチが減少しています。デジタル広告への投資は増やしているものの、現在のデジタル広告市場の主流である運用型広告は、どうしても刈り取り型評価になりがちです。このアプローチではターゲットセグメントを細分化することになるため、結果として十分なメッセージリーチ量を確保できないという課題にもぶつかるでしょう。
残念ながら「アドフラウド」、詐欺的な広告手法による広告費の用途不透明化といった問題も増加しています。また大手動画プラットフォームでは、1,000回以上再生されているコンテンツは全コンテンツの一部に限られているという指摘もあるなど、質の低いコンテンツへの広告配信によるブランドイメージの毀損も生じています。
個人情報保護の規制強化と相まって広告のターゲット精度(オンターゲット率)の低下も課題となったままです。主に運用型広告の強みである効率化、ターゲットセグメンテーションを進めるほど、フリークエンシー過多によるブランド毀損も発生、そこをケアすると今度は配信広告在庫不足が生じ、却って広告効果の低下につながるジレンマも存在します。
こうした課題を背景に、「プレミアムコンテンツへの広告掲載」、「アドフラウド対策」、そして「プラットフォームを横断したデータ分析」が継続して求められています。プレミアムアドネットワークの構築や、さらには事前予約型の広告買付けの重要性が再認識されていて、米国ではデジタル媒体でもアップフロント(※)商流が行われているのがその証左と言えます。
※アップフロント:広告主とテレビネットワークが次年度の広告枠を事前に販売するための商談の場
私はプレミアムアドネットワークだけでは広告主様のニーズに十分対応できないと考えています。伝送路の多様化で生じる広告在庫不足については、地上波広告枠とデジタル広告枠の統合化やデジタル広告在庫の多様化などに対応する必要があり、ここの商習慣を変えていく必要があるのではないか、と思います。
そこで注目したのが、SAS(Smart Ad Sales)とそのセールスツールの「枠ファインダ」です。SASは放送局が2018年に提供を開始したタイム・スポットに次ぐ第3のテレビCMで、15秒1枠単位で欲しい番組・日時を指定して購入できます。枠ファインダでは、最初に地上波SAS枠を、次にデジタル商品として「TVer」枠を搭載しています。
一方でデジタルの在庫がTVerしかない状況を打破したいとも考えていました。そこで、デジタル商品の中でも最も取り組みやすい分野としてニュースに注目。「日テレNEWS NNN」のYouTube広告枠、オウンドサイト広告枠、楽天Rチャンネルの広告枠を搭載し、多様なデータによるオンオフ統合バイイングを実現させています。