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愛されるブランドの仕組み:ブランド・リレーションシップ入門講座

ブランド・リレーションシップは本当に大切か?強いブランドを構築する3つの王道アプローチ【最終回】

どのアプローチを使うべきか?効果的な使い分け方法

 企業は3つのアプローチを、どう使い分けたら良いのでしょう。そのヒントになるのが、効果が発揮される条件の違いです。

 アベイラビリティ・アプローチは他のブランドと明確な違いがないブランドや、関心度の低い顧客を相手にしているブランドにとって効果的です。このアプローチの実行では、いわゆる「パワー・マーケティング(経営資源の量で勝負するマーケティング)」が効果を発揮しやすくなります。

 パーセプション・アプローチは、強い個性で独自の世界を形成しているブランドや、新ジャンルを構築したブランドにとって効果的です。しかし競合ブランドと明確に異なる地位やジャンルを確立できるブランドは、実際には必ずしも多くありません。

 ファン&コミュニティー・アプローチが効果を発揮するのは、顧客にとってそのブランドが、「私らしさ」を表現したり確認したりできるものであったり、あるいは自らの経験や感情を分かち合ってくれる存在として認識される場合です。本連載の第2回第5回第8回で説明したように、プロパティとしてのブランドや、パートナーとしてのブランドになれるかがポイントです。ブランド・アイデンティティのしっかりしたブランド、ロングセラー・ブランド、そして消費者に寄り添うタイプのブランドに有利なアプローチといえるでしょう。

 一般論として、パワー・マーケティングを展開するだけの経営資源を持たない小さな企業にとって、パーセプション・アプローチやファン&コミュニティー・アプローチは心強い味方となります。

【結論】ブランド・リレーションシップは本当に大切か?

 さて今回のテーマは「ブランド・リレーションシップは本当に大切なのか」でした。既におわかりのように、その答えは「イエス」です。ただし「無条件に」ではありません。

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのV字回復には、新規顧客の獲得があったそうです(森岡・今西, 2016)。そこではおそらく、アベイラビリティ・アプローチが力を発揮したのでしょう。他方、東京ディズニーリゾートの安定した地位は、多くのライトユーザーと熱心なファンが組み合わさることで、達成されているように思えます。これはアベイラビリティ・アプローチとファン&コミュニティー・アプローチが絶妙にブレンドされていると解釈できます。

 世界に目を向けると、コカ・コーラはブランド認知とブランド・セイリエンスを高めるとともに、流通チャネルを広げることで、圧倒的な地位を誇っています。明らかに、アベイラビリティ・アプローチ型の戦略です。その一方でAppleやNikeは、独自の技術やイメージによって自社ブランドを差別化するとともに、高い認知率とセイリエンス、そして広い販売網も達成しています。さらに、愛好家やコミュニティーを上手に活用し、3つの合わせ技を行っています。

 このように、3つのアプローチはいずれも大切であり、ブランドの地位、市場の状況、戦略によってバランスを考えた上で、「使い分け」たり「組み合わせる」ことで効果を発揮するといえます。3つのアプローチが有効となる条件は異なりますし、期待される効果も市場シェア、競争の回避、クチコミや支援といった具合に違います。

 本連載が扱ってきたブランド・リレーションシップは、ファン&コミュニティー・アプローチの鍵となるコンセプトです。そのため、ブランド構築のための極めて重要な要素の1つといえます。しかし十分な効果を得るには、戦略的に使いこなすことが求められます。

9回の連載を振り返って

 本連載をお読みいただき、ありがとうございました。今回の連載では、ブランド・リレーションシップとは何かから始まり、どのようにして測定するのか、どのような効果があるのか、どうして形成されるのか、どのようにマネジメントすれば良いかについて説明してきました。

 第1回の冒頭で書いたように、「強いブランド」を持つことはマーケティングを圧倒的に有利にします。そして、そのための有力な手段の1つがブランド・リレーションシップです。この連載の内容が、読者の皆さんにとって役立つものであれば、嬉しく思っています。

 お知らせ:本連載のベースとなっている『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)が、日本商業学会より学会賞(著書部門 優秀賞)を授与されました。ブランド・リレーションシップについて詳しく知りたい方は、ぜひご一読ください。

書影
ブランド・リレーションシップ』(著)久保田進彦、有斐閣、6,160円(税込)

【参考文献】

  • Ehrenberg, Andrew S. C., Goodhardt, Gerald J., Barwise, T. Patrick (1990). Double Jeopardy Revisited. Journal of Marketing, 54(3), 82-91.
  • Keller, Kevin Lane, and Swaminathan, Vanitha (2020). Strategic Brand Management: Building, Measuring, and Managing Brand Equity (5th ed.). Harlow, UK: Pearson Education.
  • Ries, Al and Trout, Jack (1993). The 22 Immutable Laws of Marketing. Harper Business.
  • 久保田進彦・澁谷覚・須永努(2022)『はじめてのマーケティング〔新版〕』有斐閣.
  • 久保田進彦(2020).「デジタル社会におけるブランド戦略:リキッド消費に基づく提案」『マーケティングジャーナル』39(3),67-79.
  • 久保田進彦(2025).『リキッド消費とは何か』新潮社
  • 森岡毅・今西聖貴(2016).『確率思考の戦略論:USJでも実証された数学マーケティングの力』角川書店.

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この記事の著者

久保田 進彦(クボタ ユキヒコ)

青山学院大学 経営学部教授、博士(商学)(早稲田大学)。日本商業学会学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/17 08:00 https://markezine.jp/article/detail/48767

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