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愛されるブランドの仕組み:ブランド・リレーションシップ入門講座

ブランド・リレーションシップは本当に大切か?強いブランドを構築する3つの王道アプローチ【最終回】

【解説】ブランド成長を加速する各アプローチを紹介

 それぞれのアプローチについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

差別化で勝負するパーセプション・アプローチ

 3つのアプローチのうち、おそらく最もよく知られているのが、2つ目の「パーセプション・アプローチ」です。このアプローチは、いわゆるSTPマーケティング(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)を基盤としています。STPは1980年代後半に確立され、ターゲット顧客を明確にして、ポジショニングによって独自性の高いイメージを形成することが最重要課題とされました。

 なかでもポジショニングは、提唱者のライズ、トラウトが「知覚をめぐる戦い」(battle of perceptions: Rise and Trout, 1993)と指摘したように、自社ブランドを、いかにして他に代わりがない、価値ある存在と知覚してもらうかが鍵となります。まさにパーセプション(知覚)が主役です。このアプローチは現代のブランド・マネジメントにおける主流であり、多くの研究者や実務家が支持しています。

認知度で圧倒するアベイラビリティ・アプローチ

 最近注目を集めているのが、第1段階の「アベイラビリティ・アプローチ」です。このアプローチは「ダブル・ジョパディ(double jeopardy)」という現象の存在を前提としています。

 ダブル・ジョパディとは、類似したブランドがひしめく市場では、小さなブランドは顧客数が少なく、行動的ロイヤルティもやや低いという二重の危機を背負っているという現象です。エアレンバーグという研究者によって1970年代から指摘されてきましたが、2010年頃からビジネス書で注目を集め、ブランド戦略のもう1つの考え方として話題となり始めました。

 代表的論者としては、バイロン・シャープやジェニー・ロマニウクなど、日本では森岡毅氏、今西聖貴氏、芹澤連氏などです。各自の主張は微妙に異なりますが、基本的な内容は(1)大半の市場において差別化やポジショニングは達成されていないこと(2)そうした市場でブランドが大きくなるには、より多くの新規顧客を獲得する必要があること(3)市場の大半はライトユーザーなので、そうした人々を中心とした戦略を練るべきだと整理できます。

 つまり、差別化やポジショニングに注力するよりも、ブランドの認知度やセイリエンスを高めつつ流通チャネルを広げることで、関心度の低い人たちが"たまたま"購買する確率を高める方が有効だというのが主張の核心です。

強力な顧客基盤を獲得するファン&コミュニティー・アプローチ

 第3段階の「ファン&コミュニティー・アプローチ」では、ブランド・リレーションシップの形成や活用が鍵となり、愛着や同一化の形成による、強力な顧客基盤を獲得が目指されます。このアプローチが有効になる条件は、少なくとも2つあります。

 まず、アベイラビリティ・アプローチやパーセプション・アプローチをある程度達成している場合、つまり図1の第1段階と第2段階をクリアしたブランドが、第3段階も達成しようとする場合です。このときブランド・リレーションシップは、既に一定程度のロイヤルティを構築しているブランドをさらに強化する、つまり「強いブランドをより強くするもの」として機能します。

 もう1つは、立ち上げ期の小さなブランドが成長機会を確保する場合です。先述の通り、アベイラビリティ・アプローチはダブル・ジョパディ環境を前提としており、そこでは市場シェアの大きなブランドほど有利になります。ところが、小さなブランドは広告コミュニケーションや流通チャネルに巨額の投資を行う余力がありません。つまりアベイラビリティ・アプローチに取り組むのが困難です。

 こうしたブランドに可能な戦略の1つは、競合ブランドとはまったく異なる独自のポジションを獲得し、熱心な顧客に支えられ成長していくことです。つまりブランドは、その成長過程の初期において、競合ブランドとは異なるものと認知されることで、広告コミュニケーションや流通チャネルをめぐる巨大ブランドとの衝突を回避しつつ成長していくことになります(久保田・澁谷・須永, 2022, p.238)。もちろんこうした場合は、パーセプション・アプローチとも組み合わせていくのが有効でしょう。

3つのアプローチの関係性

 3つのアプローチの関係性を考えてみましょう。ポイントは、図1がピラミッド構造になっていることであり、以下の3点を意味しています。

【図1】同モデルを3段階に簡略化し再構成した図
【図1(再掲)】
※クリックすると拡大します

段階性

 まず3つのアプローチには段階性があり、取り組みの順序があります。知らないブランドに印象は形成されませんし、印象の薄いブランドに愛着は抱かれません。あるアプローチに取り組むには、まずその前段階となるアプローチを、ある程度達成することが必要です。

非排他性

 また、3つのアプローチは、組み合わせ可能です。自社の顧客をいくつかに分けて、それぞれに使い分けることもできます。

規模の異質性

 さらに、3つのアプローチでは対象となる顧客数が異なります。アベイラビリティ・アプローチが多数の顧客を対象とするアプローチであるのに対して、ファン&コミュニティー・アプローチは自社ブランドユーザーの一部を対象とします。上位の階層ほど対象となる顧客数は少なくなると考えて良いでしょう。

次のページ
どのアプローチを使うべきか?効果的な使い分け方法

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この記事の著者

久保田 進彦(クボタ ユキヒコ)

青山学院大学 経営学部教授、博士(商学)(早稲田大学)。日本商業学会学会賞受賞(2007年論文部門 優秀論文賞、2013年著作部門 奨励賞)、公益財団法人吉田秀雄記念事業財団助成研究吉田秀雄賞受賞(2010年度、2016年度)。最新作は『ブランド・リレーションシップ』(有斐閣)他著書多数。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/17 08:00 https://markezine.jp/article/detail/48767

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