NTTドコモは、企業固有のデータと大規模言語モデル(LLM)により生成したユーザーモデルへのヒアリングを通して、実ユーザーの行動や選択をシミュレーションする技術と基盤を開発した。この技術を活用することで、小売店舗などを運営する企業は新商品企画や需要予測などを効果的に行うことが可能になる。
LLMには、与えられたプロファイル情報を基に回答する特性があり、ゲームキャラクターの対話生成や、マーケティングのデプスインタビューなどに活用されている。しかし、プロファイルに基づいた回答は得られるものの、示唆に乏しく、回答内容の信頼性を定量評価しにくいという課題があった。加えて、LLMは複数の選択肢について前方を好む傾向(ポジションバイアス)や、学習データセットに依存する知識のバイアスの課題もあった。
今回開発された技術は、バイアスの影響を抑えるように学習したパラメーター(属性ベクトル)でユーザーモデルを生成し、さらに数千〜数万の質問を大量に並列実行した結果を統計的にまとめることで、LLMが内包するバイアスを取り除き、精度と信頼性の高い回答を取得する。

また、本技術では大量の質問を短時間で処理するために、属性ベクトルの内部計算や効率的なキャッシュ処理を行う高速なLLMサービング基盤を開発。従来手法より回答生成において最大6倍の計算速度の向上を達成したという。
評価実験の結果
本技術の効果を検証するため、ドコモが独自に実施した味覚に関する2万人のアンケートを用いて評価実験を行った。その結果、通常のLLMを用いた場合、正答率は最小30%、最大65%と安定しなかったのに対し、本技術では73%の安定した正答率を達成した。
さらに、Relicが運営する小売店舗での実証実験では、発注担当による選定、一般的なLLMによる選定、本技術を活用した選定の3つの手法を用いて商品の販売率を比較。その結果、本技術は発注担当による発注と同等の販売率となり、一般的なLLMによる選定よりも販売率が約4%上回った。また、NTTコミュニケーションズが企画・運営を行うコンビニエンスストアでの実証実験では、新商品の売上順位を高精度に予測することを確認したという。
ドコモは本技術の自社サービスへの適用を検討するとともに、今後様々な企業と連携し、技術の高度化、汎用化および社会実装を進める方針だ。
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