「ブランド価値」の考え方にも変化が?
まず特筆すべきは、この新たな現象が、米国最大の実店舗の流通業だったWalmartのマーケットプレイスから発生したという点だ。「マーケットプレイス(サードパーティ出品者の売り場)」という新たな流通エコシステムから「これまで考えてもいなかった商品」が新たに生まれ、自社開発のPB品の在り方にも影響を及ぼしてくる。
さらに、DUPE品が存在することで、オリジナルのブランド品の価値が逆に高まる可能性がある。たとえば、高額なBirkinのオリジナル品の所有者が、日常使いには安価なDUPEバッグを、「特別な場面」にのみ本物をと使い分ければ、オリジナル品の状態が良好に保たれ、リセールに出す際の値崩れが抑えられる。
MARC JACOBSの場合も、元々ファッションやアパレルの価値や真贋を理解する層が「わかっていて、あえて買う」という購買動機が期待される。DUPE品は一見ブランドの敵にも思えるが、ブランド品の価値の維持に貢献し得る変化だ。
これを見越した製造側(出品者側)は、「みんなが飛びつくほど有名で、ブランドとして長期的に安定して売れるであろうあのブランド品」を量産によるコスト削減を見込めるような品として選び、増産ラインを作る。そのDUPE品の市場規模が、グローバルで展開するWalmartやAmazonのマーケットプレイスによって、さらに拡張していく。
こうした仮説を裏付けるような動きも出てきている。リセール専業の有名店「Rebag」は、2025年1月にWalmart Marketplaceへの出店を開始した。激安のDUPE品が出品されていることを受けて「こっちは本物(リセール価格はこちら)」と、Rebag側が追いかけてきているように見える。
Walmart Marketplace内のRebagサイトを見ると、高級ハンドバッグ、ジュエリー、時計のセレクションに、Louis Vuitton・Gucci・Chanel・Tiffany・Prada・Hermèsといった有名ブランドがカタログのように並んでいる。高額品ではHermèsの「Kelly Mini II Bag」のリセール品が52,933 ドル(約790万円)で出品されていた。「Everyday Low Price(毎日安売り)」を掲げるはずのWalmartのECサイトに、Hermèsの超高級バッグが混在する光景を、過去に想像できただろうか。
マーケットプレイス上に広がる新たな可能性
Walmartは米国に約4,700店舗を構え、店舗から約15km圏内で全米家庭の9割をカバーする。近年はテクノロジー投資を通じて既存の「実店舗/オンライン(OMO)」の垣根を越え、さらに「自社販売/セラー販売」「低価格品/高価格品」「PB品」「エンデミック(店内)/ノンエンデミック(店外)」などの垣根すら越え、事業領域を拡張し続けている。
こうした「開かれた市場」で、これまで交わらなかった領域同士が結び付き、新たな消費のエコシステムが形成されつつある。実際、同じHermèsのDUPE品が米国Walmartと「日本の」Amazonの両方に出品されている例も確認できる。
巨大プラットフォーマーの市場が横に繋がり、スタートアップと老舗ラグジュアリーブランドが初販だけでなくリセールでも関係を築く――そんな従来にはなかったブランドと消費者の長期的な関係性が模索され始めている。