インタラクティブな体験の創造を最前線でリードし続ける
━━はじめに、パネロさんが現在取り組んでいらっしゃる業務の内容や簡単なご経歴を教えてください。

私は現在、Brazeが米国ニューヨークに構える研究室「427° Innovation Lab」のヘッドを務めています。アナログとデジタルをつなげることで、オムニチャネルにどのような体験をもたらせるのか、日々実験を行っています。
たとえば最近ですと、K-POPのアーティストがステージで使うマイクをファンの盛り上がりに合わせて光るようにする、といったインタラクティブな体験を開発し、ファンとのエンゲージメントを高める取り組みを進めています。
Brazeに入社する前は、ニューヨークに拠点を置く広告会社マッキャンエリクソンでソーシャルメディアを研究しており、マスターカードやロレアルの仕事も経験しました。当時はまだソーシャルメディアで100万人のフォロワーがいても利益、費用対効果にはつながらないと言われていた時代です。CMOたちにはKPIがどれだけ改善するかと言われても誰もが答えにくい状況でした。現在では、それこそ我々が展開するカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」をはじめとした新しい技術によって目に見える成果が出せるようになりました。研究者の一人としてこの進歩を嬉しく思っています。
スピード感、そして創造性が求められる時代に
━━パネロさんはソーシャルメディア活用の最前線にいる中で顧客インサイトを起点にしたマーケティング戦略を重要視されてきた印象です。パネロさんが印象的に思うインサイトの変化、あるいは先進企業の顧客インサイトへの向き合い方について感じている変化を教えてください。
従来のマーケティング活動では、分析に時間がかかろうともそれ一つですべてをひっくり返す完璧なインサイトを探し、カスタマージャーニーの一点を目掛けて完璧なクリエイティブを作る、といった方法が選ばれてきたと思います。しかし現在では、マイクロモーメントからインサイトを捉えていかに早く価値を届けられるのかというスピード感が優先され、これが勝負の分かれ目だと考えられるようになっています。
消費者は以前よりも、ブランドがよりパーソナルなメッセージを届け、それを通じて親密な関係を構築することに期待するようになりました。仮に何百万人という規模であっても、それぞれにパーソナルなメッセージを届けることが企業に求められる時代が来ているんです。

━━パーソナルな体験が求められるとは言え、多くの企業ではまだまだ提供できていないと思います。パネロさんは現状をどのように見ていますか?
そもそも10年前と比べるとマーケティングにおいて扱うデータ、タッチポイント、メッセージは増えており、カスタマーエンゲージメントは複雑化しています。プラットフォームや各所の連携など、学ぶべきことが増え、AIという技術まで出てきて……言うなればマーケティングという宇宙にビッグバンが起きたわけです。
しかし、チームは急に大きくできるわけではなく、予算も限られています。多くのブランドは限られたリソースでいかに効果を出すかを考えていることでしょう。
大量のデータと高度化したAI、以前よりも洗練されたアルゴリズムがその鍵になる、と思いきや、皮肉にも多くのブランドは結果的に同じような発信、サービスを行っており、自分たちの魅力を伝えきれていません。魅力を引き出すためのクリエイティビティが大きく成長できていないからです。現在のマーケティングでは、クリエイティビティこそが大きな優位性を生み出します。そして、扱えるテクノロジーが良ければ良いほど、クリエイティビティも成長する、さらに良くなると私は考えています。
私は広告会社の時代から現在に至るまで、ブランド企業がカンヌライオンズをはじめとした世界有数のクリエイティブアワードで受賞するようにサポートし、実現させてきました。優秀と評価された施策の数々がデータやデジタルの仕組みを活用しており、そのこともテクノロジーがクリエイティビティを支えている証だと考えています。