差別性と汎用性のバランスが重要
米田:今、山田さんが話されたように、N1インサイトから見つけた「要」となる差別性を押さえつつ、一方で、共感度を一気に広げるポイントを見つけ出すことが売れるブランド作りの肝になりますね。

西村:はい。実はマルエフも、最初のコンセプトは「飲食店で長年愛された幻のビール」というものでした。しかし幻のビールですと、希少性が高いイメージになってしまい、より多くのお客様には届かないのではないかと考え、今は「飲食店で愛され続けるまろやかなうまみ」としています。それに合わせてCMも、新垣結衣さんを起用するとともに、クリエイティブの雰囲気や「日本のみなさん、おつかれ生です。」のメッセージから生活に寄り添うエモさを出すことにしました。これにより、マルエフのブランドポジションが明確になり、その結果大好評をいただくことができました。

米田:私は、実在する1人のインサイトを起点としてより多くの人に響く共感性を広げていく方法として、N1を複数人見つけることを推奨しています。中心となるN1を一人定めた上で、その方以外にも「これすごく良いね!」と言ってくださる方々を探し、その方々に共通するインサイトを見つけ出すことがN1を広げるTIPSだと思っています。
山田:ザ・ビタリストも発売前の調査で多くの方々に「良いね!」をいただき発売に至りました。CMには女性2人、男性2人を起用させていただいているのですが、広がりのある様々な方々に、旨さの中にある苦みのあるビールを美味しく楽しんでいただけるということをお伝えしたいという意図があります。

マーケティング部門のインキュベーターとして
米田:では最後に、新ブランド開発部が今後どのようにインサイト活用を進化させていきたいと考えていらっしゃるか、西村部長からお聞かせいただけますか?
西村:色々試していきたいと思っています。AIでN1を作る取り組みを、広告代理店さんとチャレンジしたことがありました。N1となった人のデータを全部AIにインプットして、壁打ちのようにあれこれインタビューするものです。将来的には使えそうだと感じたものの、いくつかの点で課題が残りました。
一つは、AIへのデータのインプットを手軽に行いにくい点です。これについては内製化できれば、おもしろい展開ができるかもしれません。もう一つは、AIを作る工程で間違えてしまうと、誤った答えを返し続けてしまう点です。AIのN1の反応とリアルのN1の反応を、実際の調査で比較してみたところ、近い答えが出てはきたのですが、そういったことを考えると、単純に期待できるとばかりは言えないようにも思えます。
米田:西村さんを中心とした新ブランド開発部は、AI活用も含めて、色々な企業との共創やツールの活用、多様な方法にトライされているのは本当に素晴らしいな、と思っています。
西村:新ブランド開発部では、インサイトに関して勉強し、学んだことを実践して使えるようになるまでの経験を積めます。しかも他の部署に比べると、お客様と向き合う時間も取りやすいので、マーケティングに初めて携わる人にはちょうど良い環境だと思います。
新ブランド開発部に配属された社員は、3~5年ほど在籍し、次の部署に移っていくのですが、その際に、ちゃんと売れたブランドを持って卒業してもらいたい、そうなれるくらいにまで育ってもらいたいと考えています。そういう意味で、新ブランド開発部を、マーケ人材の優れたインキュベーターにしていけたら良いですね。
米田:これからも新ブランド開発部からどんどん魅力的なブランドが世に出ていくのが楽しみです。色々お話しいただき、どうもありがとうございました。
米田からの「インサイト活用」TIPS
- N1とは実際に「すごく良いね!」と言って実在する人。
- なぜそのN1は「すごく良いね!」と言ってくださるのか。「その人のどんな価値観・ライフスタイルなどの背景要因」x「どの要素」が良いね!を生み出すのか。それを示すのが、N1インサイト。
- N1インサイトを起点として、より多くの人たちに共感されるようインサイトを広げていくには、コアとなるN1以外にも「良いね!」と言ってくださる方々を見つけ出して、共通点を探り出していく。N1インサイトであぶり出した「特徴」を尖らせすぎず、かといって鈍らせることなく、ベストバランスで広げることが重要。
