消費者意識の急速なシフト──「なんとなく共感」が市場を動かす時代へ
こうした視座の変化は、実際の生活者──とりわけ若年層の購買意識とどう連動しているのか。マーケティングの定義が「社会との価値共創」へと拡張された背景には、生活者の意識変化がある。中でも特筆すべきは、若年層を中心とした“エシカル志向”の高まりである。
ニッセイ基礎研究所(2024年)の調査では、「サステナについて学んだ」「サステナについて情報収集をしている」と答えた20代はそれぞれ30.9%、25.9%と、60代の12.9%、13.4%と比べ、約2倍となっており、単なる年代差というよりも消費の基底にある知識や情報量に大きな変化が起きているように見える。
さらに同調査では、「価格が高くても環境配慮製品を選ぶ」の回答率に、20代は26.7%。これは60代(19.3%)と7.4ポイントの差がある。決してマスではないが、この「意味あるプレミアム」を許容する層の拡大こそ、ブランドがこれから狙うべき新たな成長セグメントと言えるのかもしれない。


日常の中にある「共感消費」の兆し
もちろん、すべての生活者が社会課題に強い関心を持っているわけではない。むしろ、「なんとなく気になる」「ちょっと応援したい」といった「ゆるやかな共感」が行動の起点となるケースが多い。企業には、この未顕在な動機を丁寧にすくい取り、共感から行動へと橋渡しする設計力が求められているとも言えるだろう。
いまや、「安いから買う」ではなく、「応援したいから買う」という行動が確実に市場に根を張ってきている。このトレンドを一過性の「若者文化」と見過ごすか、それともLTVを底上げする本流と捉えるか。その判断が、これからのブランド戦略の分水嶺となるかもしれない。
成功事例に学ぶ共創モデル──社会課題とブランド体験の「交差点」をつくる
消費者の意識が確実に変化しつつある中、いち早くその兆しをビジネス成果につなげている企業がある。これらの企業は、単なるCSRではなく、社会課題の解決と顧客接点を重ね合わせる共創型の、サステナブル・マーケティングを展開している点で共通している。
たとえば、スマート駐車場アプリ「アキッパ(akippa)」は、諏訪市や地元企業と連携し、地元の大規模な花火大会における交通課題の解消に取り組んでいる。先着順の臨時駐車場による早朝混雑や地域住民への影響といった課題に対し、同社の公式駐車場の事前予約・有料化といったシステムやノウハウを導入。結果、第75回諏訪湖祭湖上花火大会では計4,400台分の駐車場が完売した。
混雑緩和に加えて、運営人員の業務負担軽減や利用者情報のデータ化、そして同社の手数料収入を除く収益を駐車場オーナーや自治体に還元することができている。官と民が役割を補完し合い、持続可能なイベント運営と地域共生を実現した好例と言えるだろう。

また、菓子大手のカルビーは、新潟県粟島浦村の青大豆「一人娘」を活用したスナック「miino」を開発。現地での農作業に社員が参加する“関係人口型プロジェクト”という設計により、地元農家の収入は大きく向上、内閣府や自治体からも高く評価された。商品企画と地方創生が重なり合うこのモデルは、地域資源×企業ブランドの好循環を体現している。
他にも、大塚製薬は京都市と連携し、大学受験生に対して京都市営地下鉄駅構内で、同社主力商品である「カロリーメイト」を提供。農林水産省の掲げる若年層の「朝食欠食率の抑制」という政策目標(アウトカム)や社会課題への具体的貢献を主力商品(カロリーメイト)と結びつける施策として注目された。「食育」という同社のパーパスが直結したケースとしても示唆に富んでいる。
社会性を「飾る」のではなく、ビジネスの「土台」に据える
これらの施策に共通するのは、「売上を社会性でPRする」という従来から見られた広報姿勢というよりむしろ、「社会性を土台として売上を実現する」という逆転の発想とも言える。KPIの裏に「社会的成果」を内包した設計がなされている点で、従来からのCSR型のキャンペーンとは一線を画している様に見える。
また、いずれも自治体との包括連携協定など、官民連携の仕組みを活用している点も見逃せない。地域課題の明確化や実行フィールドの確保に加え、継続的な関与を通じてブランドの「持続的価値」を磨く戦略的投資と言える。
もちろん、こうした取り組みは短期ROIだけで測れるものではない。しかし、LTVの向上、ブランド信頼の深化、従業員の誇り形成といった「中長期の果実」を見据えたとき、その効果は決して小さくない。