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マーケターが向き合うべき「人間の欲求」を丸裸に!セガ エックスディー伊藤氏と面白法人カヤック後藤氏が語る、ゲーミフィケーション最前線

【ビービット藤井氏×セガ エックスディー伊藤氏】両氏が実践する体験設計と、そのためのユーザー理解とは

あえて負荷をかけて幸福度を上げる

伊藤:ゲームは、人間の強烈な「欲求の刺激」を記憶に残します。高校の文化祭をイメージすると、必要なものが用意され、すべてがデジタルで効率的に進められたら、思い出には残らないかもしれませんよね。しかし何もかもが手作業で、時に仲間と喧嘩しながら試行錯誤して準備した経験は、強烈な記憶となり得ます。私は後者の体験が良い体験と考えています。

藤井:伊藤さんとお話ししておもしろいと思うのは、「負荷をかけろ」と強調される点です。

 私は最近ゲームをプレーしていて、ずっと勝てなかったボスを20時間かけてようやくクリアしたのですが、達成した瞬間の喜びはとてつもないものでした。

伊藤:仰る通り、ストレスと解放のギャップが心の揺さぶりを生み出します。ストレスがかかっていない状態の幸福度が100だとしたら、幸福度を100以上に高めるには、一度幸福度を下げることが必要です。

 また、頑張れば達成できるという絶妙なバランス設定がされているからこそ、ユーザーは諦めずに挑戦するのです。このあたりの設計は、ゲームならではのユニークな観点ですよね。もちろん理不尽なストレスをかけるとユーザーは離脱しますから、「これならいけるかも」と思わせる絶妙なバランスが必要です。

藤井:まさに、こうした考え方が、一般のサービスに欠けている「ゲームフルデザイン」という観点だと思います。難しいのは、負荷のかけ方には技術が必要な点です。ユーザーや提供するサービスによって、負荷の敷居も異なりますよね。

伊藤:ユーザーは心理的に投資対効果を計算していますから、「これに時間をかけてもリターンが少ないな」と思えば、すぐに離脱します。

「憑依型」ユーザー理解のアプローチとは

藤井:ユーザーが負荷に耐えられるか、ベネフィットに満足できるか、といった損得のバランスは、ユーザー理解がなければ設計できません。その感覚がないままサービスを作ると、「達成記念のバッジをあげればいいんじゃないか」「何かしらのレベル設定をしよう」と安易な発想になりがちです。これが、トレンド的に消費されてしまった「ゲーミフィケーション1.0」の問題だったのではないでしょうか。

伊藤:まさにその通りです。「ポイントカードを作りました」だけでは、ゲーミフィケーションとはいえません。売り上げという企業目線の目標を追求しつつ、いかに顧客目線で寄り添うか。そのバランスを取ることは非常に難しいです。

MZ:お二人は、どのようにユーザー理解に取り組まれていますか。

藤井:ビービットでは、ユーザー調査やインタビューを通じて、ユーザーの思考や感覚を追体験することを「憑依する」と呼んでいます。最近は、「ペルソナ型ユーザー理解」と「憑依型ユーザー理解」という言葉を使い分けています。ペルソナ型は、ユーザーを外から見て属性やイメージを把握する方法で、「共働きの小さな子供がいる忙しい家庭」といったイメージですね。

 一方で憑依型は、ユーザーの視点から物事を捉える方法です。ユーザーが「なぜこの判断をしたのか」という理由や背景まで、ユーザーが憑依したように深く理解するアプローチです。商品企画はペルソナ型でもある程度はできますが、良い体験を紡ぐためには憑依型が不可欠ですので、非常に重視しています。

伊藤:憑依という表現はおもしろいですよね。私も「この人は今どういう状況で、何を見て、何を好きで、なぜこれをやるんだろう」と頭の中でシミュレーションし、答え合わせをする方法をとっています。観察に多くの時間を費やすというよりは、想像力と、様々な人を見ることを重視していますね。

藤井:そこが伊藤さんの強みだと感じます。個々人の考え方まで細かく表現することが難しい場合、伊藤さんは人間の構造的欲求で説明しようとされています。

伊藤:私たちは人間が普遍的に持つ欲求をパターンに分けフレームに落とし込んでいます。「この欲求が刺激されると、人は合理的ではない選択をしてしまうことがある」という前提に立っています。

理解を深めると、頭の中でユーザーが自律的に動き出す

藤井:私たちが調査に多くの時間を費やすのは、そうしなければ憑依型ユーザー理解をできないからです。海外でビジネスをしていた際、「ユーザーの行動を観察する調査を150回こなさなければ一人前になれない」と言われていました。それほど、自分のバイアスを外してユーザーを理解することは難しいのです。

 ユーザーの状況を理解できていればこそ、「この状況でこのページが表示されたらこう感じるだろう」「忙しいのに、こんな情報は要らないだろう」といったことが見えてきます。理解が深まると、想像する中でユーザーがまるで生きているキャラクターのように感じられることがあります。

伊藤:私の場合も、まさにその感覚です。プランニングの際、良い体験であれば脳内でゲームのキャラクターが自律的に動き出します。それは、作り手である自分が動かしたいように動かすのではなく、ユーザーが「自分はこうしたい」と教えてくれる状態といえます。客観的なデータではなく、特定のユーザーから見た感想のようなものですね。

藤井:一人ひとりをどれだけ解像度高く描けるか。それが憑依型ユーザー理解の肝です。コンサルティングの現場でも「1番目のお客様は予想通りに動きますが、2番目と3番目はそうしてくれないんですよ」といったように認識を共有しています。そうして各ユーザーが共通して抱える課題が浮かび上がると、ビジネスとの整合性が取れてきます。

 もちろん人によってユーザー理解のアプローチは異なりますが、「ユーザーの目線からどう見えているか」という本質的な部分は共通しているように感じます。

伊藤:私は以前も連載でお話しした、建前の裏に隠れる欲求「デビルインサイト」も含めて考えます。そうした、人々の綺麗ごとではない部分を見ることは、非常に面白いですね。

藤井:デビルインサイトは、インタビューでは出てこない本音ですよね。建前が出てしまうため、インタビューだけでユーザーを理解しようとするのは危険です。行動や振る舞いからその人の本音を読み取る。それがよい体験作りにつながるのだと思います。

【近日公開!対談の後半に続く】

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この記事の著者

吉永 翠(編集部)(ヨシナガ ミドリ)

大学院卒業後、新卒で翔泳社に入社しMarkeZine編集部に所属。学生時代はスポーツマーケティングの研究をしていました。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/09/26 07:30 https://markezine.jp/article/detail/49036

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