リサーチの“外れ値”こそ宝の山。関口氏が語るN1分析の極意
N1分析は、具体的にどのように進めればよいのだろうか。関口氏によると、N1分析はあらゆる顧客に対して行うことが有効だ。既存顧客はもちろん、失注顧客、競合から自社/自社から競合へスイッチした顧客も対象となる。
もう1つのポイントは、ヒアリングした内容を要約せず、できるだけ一字一句再現していくこと。抽象度を高めると、消えてしまう情報があるからだ。N1分析を行う理由も同じで、ペルソナを作って顧客像を抽象化すると、本音や言葉の裏に潜むニーズに気付けない。
さらに、問いかけ方も重要となる。有効な質問として「前と比べて、最近大きく変わったと感じたことはありますか?」という尋ね方を関口氏は紹介した。顧客に過去と現在を比べてもらうことで、何が便益なのか、どんな価値を感じているのか、あるいは顧客自身が仕方ないと受け入れている課題などが見えてくる。
もちろん1人の意見を深堀りするスタイルなので、時には汎用的ではない回答も出てきてしまう。いわゆる「外れ値」と呼ばれるものだ。
しかし関口氏の感覚では、一見すると外れ値に見える意見こそが「宝の山」だという。どんな商材もコモディティ化が進むからこそ、これまで多くの人が見逃している点にヒントが潜んでいることが多い。特殊な使い方をしているユーザーの声に、思わぬ発見をすることも少なくないそうだ。
得られたインサイトを言語化して共有し、PDCAを回す
このように行われたN1分析の成果を、パナソニック コネクトではどのように活用しているのか。同社では「Blueprint(マーケティング設計書)」と呼ばれる、ドキュメントフォーマットを用いて得られたインサイトを活用している。Blueprintでは、以下の4フェーズを定義している。
(1)誰(Who)に対し、何/どんな価値(What)を提供していくのか明らかにする
(2)(1)を踏まえて、しっかり売れる体制になっているのかセールス/サポートイネーブルメントを確認する
(3)ターゲットに価値を提供するための体験やプロモーション(How)を設計する
(4)PDCAを回していく
Blueprintの最大のメリットは、言語化して全員で共有できることだ。各部門の思い込みや押しつけ、イメージを排除し、基準を目に見える形にして全員で共有することで、同じ前提に立てる。これがあると、事業が進んだ後に「話が違う」という齟齬は起きなくなる。またPDCAを素早く回す際にも、共通前提があることで実行から振り返りまでのプロセスが短縮されるという。
関口氏は、まだ発展途上としながらも、顧客理解の次なるフェーズを見据えている。
「これまでは『イベントに来たお客様がWebを見てコンテンツをダウンロードした』といった行動データが大事でしたが、これからは商材を含めて顧客接点に関わるすべてがデータ化されていくでしょう。データをどのように活用していくかがポイントになります。私たちも、まさにこれらのデータを活用して顧客解像度をさらに高めていくことに挑戦したいと思います」(関口氏)
最後に、富家氏が「本日紹介されたポイントを持って帰っていただくことで、セッションタイトルにある『BtoBマーケターが顧客の解像度をぐっと高め、実務に活かす』ことができるのではないでしょうか」とセッションを締めくくった。
