実務レベルの変化「コーポレートブランド」がすべてを左右する
早川:「価値共創」において、実務レベルで特に大きく変わったことや、重要なポイントはありますか。
宮地:BtoCにおいては、特に「体験」が重要だと思います。購入しようと思う前段階として、たとえば「工場などの施設を見学したらすごく楽しかった」などを体験すると、それをきっかけに「商品を買ってみようか」という流れになります。
他にも、サプライチェーンにいる複数の会社が、たとえば「野菜っていいよね」という文脈で、同時期にオウンドメディアやSNSで発信することで、ときにはテレビCMを出すよりも大きな意義や価値を生み出せるようになっている場合もあります。
大橋:BtoB広報の実務に絞って申し上げると、ここでもポイントは三つあります。一つ目はコーポレートブランディングの重要性です。従来、企業と商品の広報はそれぞれ別で活動していました。
しかし、価値や体験を主軸に考えると、商品の広報をしている担当も「どのような企業が作っているのか」を伝えることが重要になってきます。「作っている企業」に対して共感してもらうことで、購買につながる場合もあります。
二つ目は、広報とマーケティングの融合です。スタンダードな広報のチャネルからの発信だけでは顧客は満足せず、セミナーやショールームなどの様々な体験を通じて、商品を理解いただく形に変わってきました。そこで、IMC(統合型マーケティング)のように、広報とマーケティングが戦略を共有し、一貫性のあるパワフルな情報として発信することで、顧客に納得いただくようにしていました。
三つ目は社内広報についてです。これまで従業員に対しては、求心力や満足度を高めるための広報が中心でした。しかし、だんだんとデジタルのチャネル以上に、従業員が顧客との一番強いコンタクトポイントになり、従業員が自信をもってステークホルダーと対話できるようにするための社内広報が必要になりました。
なぜ両者はすれ違うのか?短期目標と中長期投資のジレンマ
早川:マーケティングと広報が共創するためには、どのような体制が理想なのかが悩みどころです。たとえば、マーケティングの中に広報の役割を入れた場合、売上などマーケティングのKPIを達成するためだけに活動していると、広報は引っ張られ過ぎて本来の役割を見失ってしまう可能性があります。
一方で、広報とマーケティングが離れていると「価値共創」がなかなかできず、コーポレートとプロダクトのブランディングが別々になったり、広報は指示されたものだけをPRすることにとどまったりします。お二方から見て、マーケティングと広報はどのような役割分担や連携をするとうまくいくのか、ご意見をいただきたいです。
宮地:モノが売れるためには、前提として顧客からの共感と信頼が必要です。それはマーケティング、広告だけでは実現できないことで、広報も含めての情報発信をする必要があると思います。
大橋:マーケティング部門では売上や受注、顧客開拓などの短期目標に対して活動することが優先されがちで、中長期的な取り組みをしたくてもできないことがあります。
そこで、日立製作所にいたときには、マーケティング部門が活動しやすいように、広報が中長期的な視点からコーポレートブランディングにしっかりと投資しました。他にも、メディアやインダストリーアナリストとのリレーションの活用やIR活動などを通じて、ステークホルダーからの期待を高めることにも注力しました。
結果として、立ち上げに時間がかかる新規ビジネス開拓のプロジェクトなどでは、うまく連携しつつ活動できました。このような戦略を、しっかりと広報とマーケティング間で粘り強く共有し連携することが大切です。