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第114号(2025年6月 最終号)
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インサイト活用のプロ・米田氏と紐解く、実践的インサイト活用法

未来のレモンサワーなどCM好感度が高いアサヒビール。秘訣はインサイトを捉えた「オリエンシート」


過去の失敗例とCM好感度が全業類の中で1位*の「未来のレモンサワー」、その違いとは?

*2024年6月度のCM好感度調査でアサヒビールとして初の作品別No.1(全業類作品数 3,790作品のうち)

米田:オリエンシートを導入したからと言っても、誰でもすぐに良いCMが作れるというわけではなく、中村さんも当初は色々苦労もされたと思います。ですが、今となっては「未来のレモンサワー」や「スタイルフリー」、「GINON」など、CM好感度の高いCMをたくさん手がけられていますね。苦労されたからこそ見えてきた秘訣について、具体的にお話しいただけますか?

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中村:まず失敗した例で言いますと、2023年に手がけた「アサヒザ・リッチ」のオリエンシートは、自分史上最低だと思っています。

 当時は「飲み飽きない驚きのうまさ」とか「日々が華やぎ、気持ちを高揚させる」などと書いてしまっていましたが、これは前述した「かっこいい」や「きれい」と同じような「解釈の幅が広すぎる形容詞」の羅列に過ぎず、伝えたいことが整理されてもいなければ優先順位もついていません。ブランドがユーザーに伝えたい内容を言語化するということが全然できていなかったんですね。同時期に担当した「贅沢搾り」のオリエンシートもまったく同じような感じで、自分でもこれでは良いクリエイティブができるわけがないと模索を続け、結果、前述した「良いオリエンシート」のルールを見出しました。

米田:では続いて、成功例のお話もお伺いします。「未来のレモンサワー」は、本物のレモンが入った世界初の缶チューハイという画期的な商品で、売り上げも絶好調ですが、中村さんは、未来のレモンサワーのCMをどのように分析していますか。

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未来のレモンサワーの広告クリエイティブ/CM動画はこちら

中村:おかげ様で「未来のレモンサワー」のCMは2024年6月度のCM好感度が全業類の中で1位となりました。

 その秘訣は、まずオリエンシートに書く内容を、シンプルかつ明確に言語化できたことが1つ。そしてもう一つは、オリエンシートを書く以前の話として、全社を挙げての画期的なイノベーションである「商品」そのものを主役に置いたCMを創る、ということについて社内で合意できたことが良かったと思っています。

 ブランドマネージャーとも、CM制作にあたって一番初めに「絶対にタレントは起用しない」と決めたんです。視聴者に興味をもって見てもらい覚えていただくために有名なタレントさんを起用するというのはCMの王道なのですが、「この商品の一番の価値である、画期的プロダクトの素晴らしさをダイレクトに伝えるためには、タレントはむしろ邪魔になる」と考え、望月部長もこの意見を支持してくれました。

 全社で大きな期待をされていた商品なので、「CMに誰を起用するのか」という話は何度も議論に上がったのですが、あくまで商品だけをきちんと見せることが何よりの勝ち筋だと考えていましたね。その覚悟を最後まで持ち続けられたことが成功の要因だったと思います。

「スマドリ」と「アサヒゼロ」、それぞれのCM制作の難しさとは?

米田:続いて「スマドリ」関連のCMを担当されている宮﨑さんにおうかがいします。まず「スマドリ」について教えてください。

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アサヒビール株式会社 コミュニケーションデザイン部 宮﨑智子氏
入社後、コミュニケーションデザイン部において、スマートドリンキング(通称スマドリ)やノンアルコール飲料のコミュニケーションを担当

宮﨑:スマドリ(スマートドリンキング)とは、お酒を飲む人、飲まない人関係なく、体質や気分に合わせて、自由に好きな飲み物を飲んで楽しもうという自由な選択肢が広がる世の中を作るために、私たちが推進している思想です。

米田:スマドリは、思想あるいは文化と言えるものなので、「モノ」と「コト」で言うと、「コト」にあたりますが、宮﨑さんはスマドリという文化を広める「コト」のCMと、ノンアルコールビールなど「モノ」のCMも作っていらっしゃいます。

 まずは、「モノ」のCMから伺います。発売から1年が経ってますます大人気の「アサヒゼロ」は、当初販売目標の約2.8倍となる172万箱を昨年達成し、好調に推移していますね。宮崎さんは発売時のCMからずっと担当されてこられましたが、「アサヒゼロ」のCM作りのご経験についてお話しいただけますか?

宮﨑:「アサヒゼロ」はノンアルコールビールでは後発ブランドになるので、売り文句を考えるために、まずはN1の深掘りをしていきました。

 すると、ターゲットにとって、ノンアルコールビールは「ビールが飲めない時に仕方なく選ぶ代替品」であり、「美味しくない」「我慢して飲むもの」というアンコンシャスバイアスがあることがわかってきました。しかも、そのような方々にアサヒゼロを実際に飲んでいただくと「え!?これ本当にノンアルなの?」「普通のビールじゃないの!?」「すごく美味しい!!」と、大きな驚きを持って喜んでいただけることがわかりました。

 オリエンシートでは、美味しいノンアルなんて出会ったことがないし、美味しくないと思い込んでいる方々に、実際にアサヒゼロを飲んでみていただくと、ほとんどの方がその美味しさに驚き「ビールかと思った」と言ってくださる、という事実を伝えてほしいという内容にしました。その結果、「ZEROの衝撃」というインパクトのあるクリエイティブをご提案いただき、本格的な美味しさが伝わり、ノンアルの概念を変え、多くのユーザーにじゃあ飲んでみようかという態度変容を起こしていただくことができました。

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アサヒゼロの広告クリエイティブ

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「スマドリでええねん!」誕生の裏側

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この記事の著者

こまき あゆこ(コマキ アユコ)

ライター。AI開発を行う会社のbizdevとして働きながら、ライティング業・大学院で研究活動をしています。
連絡先: komakiayuko@gmail.com

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/06/25 10:03 https://markezine.jp/article/detail/49187

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