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マーケター必読!論文のすすめ

社会や技術が大きく変化している今、改めて捉え直したい「顧客経験(CX)のマネジメント」【論文紹介】

Instagramの投稿写真とエンゲージメントの関係は?ニューテクノロジーと顧客経験

 AIを中心として目覚ましい発展を遂げている今日的なテクノロジーは、顧客経験と切っても切り離せない関係にあります。兵庫県立大学の土方嘉徳教授と日本アイ・ビー・エムの森本雅也子氏による論文「Instagramにおける若い女性ユーザーの投稿写真の顔特徴とエンゲージメントの関係(日本語訳PDFダウンロード)」は、Instagramの投稿写真とエンゲージメントの関係という、極めて今日性の高いテーマを扱っています。

 調査の結果、写真中の顔の有無、身体的魅力、笑顔の程度、顔への加工の有無、テキストの長さ、タグ数といった要因と「いいね!」数との関係が明らかにされています。「成人式」「卒業式」「カフェ」「国内旅行」といったコンテクストに分けて分析されているため、非常にきめ細やかな示唆を得ることができます。

 AI搭載のスマートスピーカーがもつ自律性(ユーザーの介入なしに動作できる程度)と双方向性(ユーザーと会話などのコミュニケーションができる程度)が、消費者のウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)にどのように影響するのかについて検討するのは、関西学院大学の西本章宏教授による論文「スマートオブジェクトに対する消費者の相互作用経験への理解 ― 消費者ウェルビーイングを促進させる自己拡大と自己拡張の効果検証 ―(日本語訳PDFダウンロード)」です。

 この論文によれば、スマートスピーカーの自律性と双方向性は、消費者が目標を達成するために必要な資源やアイデアを獲得することで自己認識を強化する(自己拡大)傾向や、自らの身体だけでなく、周囲の物、状況、人間関係なども自分の一部として捉える(自己拡張)傾向を強めます。それによってユーザーは、スマートスピーカーに親近感を覚えるようになったり、スマートスピーカーがまるで人間であるかのように感じるようになったりします。その結果、消費者は心身ともに満たされた状態になりやすくなることが示されています。

 日本マーケティング協会の新定義が示しているように、社会への貢献は今日的なマーケティングの根本的課題であり、主目的でもあります。そのような時代にあって、消費者のウェルビーイングを組み入れた顧客経験モデルを構築する意義は極めて高いでしょう。

 さらに、スマートスピーカーという新しいテクノロジーの視点に立っている西本章宏教授の論文は、(1)テクノロジーの進化がもたらす社会全体のデジタル化と(2)社会の持続可能性に対する人々の脅威と関心の増大という、2大背景の双方を兼ねた素晴らしい内容です。

ECにおけるアバターの存在が与える影響とは

 青山学院大学の西井真祐子准教授による論文「孤独なEコマース利用者の顧客経験(CX)にアバターが及ぼす影響(日本語訳PDFダウンロード)」においても、Eコマース・サイト上の購買プロセス全体を通じてアバターの存在が顧客経験の満足度にどのような影響を与えるのか、という鮮度の高いテーマが扱われています。

 オンライン購買プロセスの段階によってアバターの存在が評価におよぼす影響は異なる可能性があることや、消費者の孤独感によって顧客経験の満足度を高めるアバターの出現頻度が異なるといった知見は、実務的にも極めて高い示唆を提示するでしょう。

 消費者がどの程度孤独を感じているかによって、適切なアバターの出現頻度が異なるという結論は、消費者のウェルビーイングなど社会的貢献につながる研究へと発展していく道筋をつける役割も担えるといえます。そうした研究と実践が今後ますます増えていくことを期待したいと思います。

参考文献

Brakus, J. J., Schmitt, B. H., & Zarantonello, L. (2009). Brand Experience: What is It? How is it Measured? Does it Affect Loyalty? Journal of Marketing, 73(3), 52–68.

Hamilton, R., Ferraro, R., Haws, K. L., & Mukhopadhyay, A. (2021). Traveling with companions: The social customer journey. Journal of Marketing, 85(1), 68–92.

Hoyer, W. D., Kroschke, M., Schmitt, B., Kraume, K., & Shankar, V. (2020). Transforming the customer experience through new technologies. Journal of Interactive Marketing, 51(1), 57–71.

Pine, B. J., II, & Gilmore, J. H. (1998). Welcome to the experience economy. Harvard Business Review. https://hbr.org/1998/07/welcome-to-the-experience-economy

Schmitt, B. (1999). Experiential Marketing. Journal of Marketing Management, 15(1–3), 53–67.

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この記事の著者

須永 努(スナガ ツトム)

早稲田大学 商学学術院 教授
1999年早稲田大学商学部卒。博士(商学)早稲田大学。2022年より現職。専門は消費者行動論、マーケティング論。日本商業学会理事、日本消費者行動研究学会理事、日本広告学会理事、内閣府認定マーケティング検定委員会委員などを歴任。主な論文に"Connotative Congruency Effect Between Instrumental Timbre and Visual Design Features on Consumer ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2025/06/04 08:00 https://markezine.jp/article/detail/49229

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