“情質価値”を高める、サッポロビールのマーケティング戦略
──今回はサッポロビールが黒ラベルのイベント施策で実施したradikoの音声広告についてうかがいます。まず、黒ラベルではどのようなマーケティング戦略を取っているのかお聞かせください。
谷本:今の生活者は、多くのメディアと接触しています。その中でも、能動的に情報を取りに行く方もいれば、受動的に情報を得る方もいます。我々は、能動的に情報を取得しに来た方に正確な情報をお届けするのはもちろんですが、そうでない方々にも、生活の中で自然に広告に触れて情報が届くようなマーケティング活動をしています。

メディア統括グループ リーダー 谷本陽二郎氏
営業職を経て現職。ペイドメディアを中心にビールをはじめ缶チューハイやカクテル類などといったRTD領域のメディアコミュニケーションの企画・推進を担っている。
谷本:黒ラベルでは、広告で「キレ」などの味の訴求は多く謳っておらず、ブランドの世界観に共感・共鳴していただけることをマーケティング活動の大きな軸としています。特に重要視しているのが、感情の質を高め、人生を豊かにすることを意味する“情質価値”です。ブランドの姿勢を表現する広告や、体験イベントや店頭・飲食店様でお客様との接点をつくることで、情質価値を高められたらと思っています。
──情質価値を高める方法として、なぜリアルのイベントを重視しているのですか。
谷本:実際に商品を体験していただかないことには、ファンの獲得はできません。その最初の接点をつくるための場という意味で、リアル体験イベントを非常に重視しています。
非日常な「リアル体験」を提供し、ファンを醸成する
──リアル体験イベントとして「THE PERFECT 黒ラベル WAGON」を実施されているそうですが、どのような取り組みですか。
谷本:ブランドのファンになっていただくには体験が大事だと考え、2014年から全国各地で実施してきました。「“大人”の世界観の中で、完璧な生ビール体験を。」というコンセプトのもと、完璧なグラスと完璧なサーバー管理、完璧な注ぎ方をする「パーフェクト黒ラベル」を、黒を基調とした大人な空間のワゴンで提供して楽しんでいただくイベントです。ビール自体は市販の黒ラベルと同一ですが、サーバーや注ぎ方に徹底的にこだわることで、上質な泡や温度、クリアさを体験していただけます。

谷本:我々はビールの白い泡と黄金色の液体の境目にある細かな霧状の泡の層をフロスティミストライトと呼んでいるのですが、それがあることによってきめ細かい泡がずっと発生し、ビールの美味しさが持続する仕組みになっています。その結果、クリーミー感が長く続き、一口目の美味しさを二口目以降も感じていただけます
梅木:私も行きましたが、入口にはテレビCMの世界観を拡張した「大人エレベーター」があって、自身の年齢の階のボタンを押すのもブランドを感じられる体験でした。

リサーチ会社・メディア会社を経て現職。radiko Adをはじめとした事業開発と営業推進を担っている。
谷本:エレベーターのボタンが20歳から99歳まであり、来場者の方がボタンを押すことで、“何階の大人か”自己投影しながらブランドストーリーに没入いただく設計になっています。
──イベントではどのようなファンの獲得を狙っていますか。
谷本:フェスへの出展やポップアップショップの併設も行っていて、音楽ファンやファッション感度の高い層にもリーチし、“黒ラベル=大人のスタンダード”として認知と体験を拡大していくことが狙いです。おかげさまで黒ラベルは非常に売上が好調なのですが、こうした直接的な接点でのファン獲得も大きな要因になっていると捉えています。