「Do-Not-Reply」からの脱却を
「もしすべてのマーケティングメッセージが、お客様との『双方向の対話』のきっかけになるとしたらどうなるだろうか?」という問いかけから、ケルマン氏は話を始めた。この質問の意図には、今のデジタルマーケティングの“慣例”への問題提起がある。

現在、デジタルマーケティングの王道は、見込み客へのアプローチでメールを利用することだ。しかし、その内容には必ず「Do-Not-Reply(このメールは送信専用です)」の文言がある。ここで受け取り手の興味を引くことに成功すれば、リンクをクリックしてもらい、その先のジャーニーに進めるが、ほとんどの場合はそのままゴミ箱行きになってしまう。対話可能なテキストメッセージを使う場合ですら、リンク付きのメッセージを送るまでだ。広告でも同様に、Webページへの誘導までとなり、マーケターは「リンクをクリックしてくれたか」に一喜一憂しているのではないだろうか。
「対話を自ら拒絶するような『Do-Not-Reply』のメールは、既存のデジタルマーケティングの行き詰まりの象徴のようなものだ」とケルマン氏。これを見直さない限り、カスタマージャーニーを先に進めることは難しいと指摘する。そして、この状況を改善しようとケルマン氏が提案したのが、あらゆるマーケティングチャネルから双方向での対話を実現する「Agentic Marketing」である。
カスタマージャーニーのドライバーは「AIエージェント」へ
Agentic Marketingでは、カスタマージャーニーのドライバーになるのは「AIエージェント」だ。AIエージェントができることは大きく3つある。第一に、データを理解すること。マーケティングのためのAIエージェントなので、顧客に関するあらゆるデータにアクセスできることが、その理解の前提になる。第二に、自律的に計画を立てること。顧客が何かを質問した時、AIエージェントは質問に関連するデータを参照し、達成するべきことから逆算し、やるべきタスクを複数のステップに分解して再構成する。第三が、計画に則してアクションを実行することだ。人間が辞書をアップデートしなければならないチャットボットと異なり、AIエージェントは自律的にアクションを実行できる。
この能力が、これまでのマーケティングの常識「Do-Not-Reply」を変えることに役立つ。「私が話す機会のあるCMOのほとんどは、チームに求められる仕事の量が、実際の時間の2倍から5倍にも達していると訴える。 AIエージェントのメリットは、従業員の能力を大幅に拡張できることだ。同時に、従業員がやりたくない単純で面倒なタスクから解放し、もっと楽しいタスクに専念できるようにする。AIエージェントに作業負荷の一部を移転できれば、マーケティングチームの業務の質は向上する」とケルマン氏は述べた。