本社も巻き込んだ分析プロジェクトで、Udemy/ベネッセ史上初の試みが誕生
米田:このプロジェクトはオンラインスタディを活用されている12名の日本人の方々にデプスインタビューを行い、本社の方々にもサンフランシスコから通訳つきでオンラインで参加いただきました。インタビュー後のデブリーフィングで印象的だったのは、彼らが「日本人ってそうなんだ」と驚きつつも、「日本市場で勝てる可能性が見えた」と非常に前向きな反応をされていたことです。
杉原:まさに、現場の声を直接届けることの重要性を感じた瞬間でした。画面越しでもリアルな声を届けられたことが、グローバルの視点を大きく動かしたと感じています。

米田:調査を通して、印象的だったエピソードなどはありますか?
杉原:ある女性対象者が、「Udemyって、海外の自分には身近ではないサービスだったけど、ベネッセがパートナーだったから使ってみようと思った」と話してくれたんです。この言葉を実際に聞いていた当時のUdemyのグローバルマーケティング最高責任者がその場で強く反応し、「Benesse Great!」と感激してくれました。
これがきっかけとなり、「Udemy x Benesse」という“Co-brand”が誕生しました。
菊地:世界各国でUdemyというブランドを展開しているUdemyにとって、ローカルパートナーとCo-Brandするというのは初めてのことで、画期的なできごとでした。
杉原:ベネッセにとっても、60年以上の歴史において初めての試みでした。成功できた背景には、まさにN1分析プロジェクトの存在がありました。

米田:ベネッセの認知度は非常に高く、Udemyはベネッセ独自のオンライン学習サービスだと誤解されている方もいましたね。
菊地:そうですね。元々Udemyは、ITエンジニアなどのイノベーター層やアーリーアダプターを中心に広がってきましたが、成長の鈍化が見え始めたタイミングで、ベネッセのブランド力が新たな層への拡大に寄与しました。特に市場を広げる上では、ベネッセが信頼の土台となっていたと感じています。
顧客とリアルに触れ合う体験「イマージョン」の重要性
米田:サンフランシスコから参加された方々の反応はどうでしたか?

菊地:今回の調査に参加したグローバルメンバーは、当時のマーケティング最高責任者だけでなく、グローバルフレームワーク設計者やグローバル戦略担当などもいて、それぞれの視点や目標は異なっていました。しかし、立場は違っても、Udemy社員は全て「カスタマーセントリック」という共通の価値観をもっています。今回のプロジェクトを経て、部署や役職を問わず、またグローバル担当かローカル担当かは関係なく、「顧客理解」が全員に求められるという共通認識を確認できたのは、大きな成果でした。
また、ローカルの立場では日本市場の違いや独自性を強調しがちになりますが、「ここは世界中で共通している」という点も、同時に伝えることが重要だと思いました。そうすることで本社も納得し、「ここまでは本社が決めるが、その先はローカルに任せる」といった線引きが可能になりました。
米田:非常にうまく調整されていた印象です。その成功の要因は何だと思いますか?
菊地:やはり、実際に現地の人や顧客を「見る」ことです。本社の担当者が直接現場に触れることで、理解が一気に深まります。また、日本市場が世界で重要な市場である事実も、説得力を持たせる要因になりました。
米田:ベネッセさん側では、多様な立場の方々が関与されたことで、どんな効果や学びがありましたか?
杉原:このプロジェクトは、ベネッセだけで進めていたらここまで動かなかったと思います。重要だったのは、リサーチを「共有する」のではなく、「一緒に体験してもらう」ことです。もちろん運営には負荷もありましたが、推進力とパッションを持って巻き込みに動いたことが、結果につながりました。特に上層部は忙しく、現場に参加することが稀です。だからこそ、数値や事実に“熱”を込めて伝えることが重要です。
菊地:最近もUdemyの社長とCMOが来日した際、CMOと一緒に街を歩き、ショッピングモールを巡って日本という国、日本人のライフスタイル、日本人の価値観を垣間見てもらいました。そうした体験が、彼らの日本という市場と日本人というターゲットユーザーに対する理解に確実に結びついています。
米田:データや情報を左脳で理解するのではなく、体験として実感する「イマージョン」ですね。P&GでもグローバルCEOを含むグローバルゲストが各国現地に出張してこられる時は、Home VisitやShop Alongなどを通して現地のユーザーと一緒に行動をともにして直接話を聞くというイマージョンDayが必ず予定されていました。
杉原:ベネッセでも全社的に顧客に会うことを重視し、社長を筆頭に経営陣も含め、顧客に会う機会を積極的に作っています。やはり、現場に触れることでしか得られない理解がありますね。
