「届けること」と「使い続けてもらうこと」は違う
少し想像してみてください。
ある商品に興味を持ち、Web広告をクリックしたユーザーがいたとします。ページの内容に納得して、「いいかも」と思っている。でもその人が実際に購入ボタンを押すまでには、さまざまなハードルがあります。
価格の妥当性は? 今買う必要はある? 家族の了承は必要? そもそも、自分の課題を本当に解決してくれる?
こうした迷いや疑念を乗り越えて購入した後も、商品・サービスとのつながりは終わりません。期待通りだったか、生活環境が変わっても使い続けたいか。デザイナーはこうした購入後の体験まで意識しながら設計しています。
逆に、どんなに魅力的な体験設計をしても、ユーザーにその存在を知られなければ意味がありません。広告、SNS、メルマガなど興味を持ってもらう「きっかけ」をどう作り、どのタイミングで届けるか。情報があふれている今、マーケターは、まさにこの「情報の届け方」に頭を悩ませていることでしょう。
つまり、「届けること」と「使い続けてもらうこと」を達成するためには、別の視点と深さが求められます。
デザイナーがマーケティング的な「きっかけづくり」の発想を持ち、マーケターが「購入後の体験」や「背景にある日常」にも想像力を持っていたら、デザイナーとマーケターの間にある溝は埋められるはずです。そして、そのプロダクトやサービスは、きっともっと選ばれ、一度きりの購入ではなく、使い続けてもらえるものとなるでしょう。
そんな視点の重なり合いが、持続的なビジネス成長につながるのではないでしょうか。
マーケティングにUXデザイン的思考を取り入れた飲料メーカーの例
とある飲料メーカーは、サブスクリプションモデル商品のユーザー数成長の鈍化と、ユーザーの満足度に課題を感じ、グッドパッチにご相談をいただきました。
グッドパッチでは、デザインリサーチによる顧客理解を通じ、「多くの顧客はその商品を身近であると感じるが故に、深い楽しみ方に気づけていない。一方でエクストリームユーザーはその商品の周辺や奥行きを知り、自ら探求することに喜びを感じている」というインサイトを導き出しました。
そこで、マーケターとデザイナーでタッグを組み、「商品をどれだけ楽しんでいるか」を軸にユーザーを4つのセグメントに分類。それぞれのセグメントユーザーが一歩上の楽しみ方へと進むには、どのような「気づき」や「きっかけ」が必要なのかを設計しました。
具体的には、属性や購買履歴だけを見るのではなく、上位セグメントのリアルな声や行動をヒントに、ユーザーの“楽しむ余地”を広げる体験設計を組み上げていきました。
そこからマーケターは、その視点をCRM戦略へと落とし込み、ユーザーに自然に届くコミュニケーションを設計。社内で用いていた「セグメント」という視点は、ユーザーに届ける際には4つの「プラン」という形に再構成し、より外部視点に立った伝え方へと変換しました。
サービスサイトでも4つのプランを単に並列に並べるのではなく、それぞれの魅力が直感的に伝わるよう、構成・コピー・ビジュアルに丁寧に落とし込みました。ユーザーが「自分に合った楽しみ方を選ぶ」こと自体が楽しい体験となるよう、マーケティングにUXデザイン的な視点を取り入れたわけです。