国や時代、言語の違いを超え、ビジュアルだけで固定概念を覆す
今回の課題は、インドの美術館「The Museum of Art & Photography (MAP)」の企画展ビジュアル・アイデンティティ(VI)制作でした。展示は「Indian Visual Storytelling: From Timeless Traditions to Modern Comics」と題され、インド古来の絵巻や紙芝居から現代のコミックまで、多様な作品で構成されているという設定です。この展示を通して、多くの人が持つ「コミックは欧米中心で子供向け」という固定観念を覆すことが、私たちに課されたミッションでした。
最初は、インドという私たちにとってあまり身近ではない国がテーマだったことに加え、展示物も素材・技法ともに多種多様で、何を拠り所にVIを構築すべきか悩みました。そんな時、Yuweiが「私たちがSNSにストーリーを投稿するのもStorytellingだよね」と言ったのをきっかけに、国も時代も様式も違うインドの作品が急に身近に感じられました。
そこから私たちは「時代や様式が変わっても、人が物語を伝える行為は変わらない。いつだってStorytellerである」というコンセプトをもとに、企画展名とVIを制作しました。以下、制作したボードをご覧ください。

物語に登場するキャラクターが発する“声”を記号で表現し、それをインドの文字と組み合わせました。展示が海外を巡回した際も、一目で“インドの美術展である”ことが伝わるよう意識しました。
しかし、本戦でゴールドを受賞したチームの作品を見た時、私たちのアプローチとの違いに殴られたような衝撃を受けました。24時間でここまで仕上げるのか……というのが最初に抱いた正直な感想です。そしてすぐに、「私たちはここまで考え切れていたか」という反省が押し寄せてきました。
私たちは、バックグラウンドが違うからこそのノンバーバルなデザイン、すなわち言葉や文字を使わずに視覚的な要素やシンボル、形状、色彩などを通じて情報や感情を伝えるデザインと相性がよく、その強みを武器にいつも通りの自分たちらしい戦い方ができたと思っています。優勝した他国チームに対して非常に悔しさを感じましたが、それ以上に得た学びも大きかったです。
正解のイメージは既成概念によるもの?自分たちの“強み”を突破口に
今回のチャレンジを通して感じたのは「既成概念にとらわれず、柔軟に挑戦する姿勢の大切さ」です。
私たちは、コンセプトをグラフィックのみで完結させる表現に力を注ぎました。ですが、今年受賞した作品の多くは、ロゴのモーションやそれに伴う展開方法まで丁寧に設計されていました。そうした表現に触れる中で、「自分たちはどこを強みにできていたのだろうか?」と見つめ直すことができました。
日本予選で評価された“企画力”をもっと活かして、体験も含めたインタラクティブな展開を強く見せられたら良かったのかもしれません。「きっと本戦ではこういう表現が正解だろう」と自分たちで決めつけ過ぎていたのだと思います。
また、現地での交流を通して特に実感したのは、文化や言語の違いがあっても、デザインは“共通言語”になり得るということです。グローバルクライアントと向き合う環境で働く者として、今回の経験は大きな財産になりました。世界の期待値やトレンドを肌で感じられたことで、「どこを突破口にするか」「どこで自分たちらしさを出すか」といった戦略的な思考も、これからより活かしていけると思っています。今回の挑戦で得た視点や学びを、今後のデザインワークにしっかり反映していきたいと思います。
ヤングカンヌは、デザインの美しさやインパクトはもちろんですが、ボードやVIの展開アイデアで「人に届く仕組みを作る=マーケティング」と「その仕組みを魅力的に伝える表現=デザイン」の両方が試される、とても貴重な場です。だからこそ「これが正解だろう」と決めつけず、自分たちらしい切り口で、自由に表現を広げてみてほしいと思います。
