商品開発:知覚体験設計と“スクラム”組織による一貫性の創出
商品開発にあたり、まずはワークショップを開催した。30名以上のメンバーが参加し、トレンドを幅広くインプットした上でアイデアを出し合い、決めたコンセプトは「完全栄養シャンプー」。そこから、処方、使用感、仕上がり、容器、デザイン、KVまで、すべてを「栄養感」と「青の感情」に貫徹して設計した。
特徴的なのは、ヘアケア行動を細分化した「知覚品質フロー設計」だ。予洗い、手に取る、塗り広げる、泡立てる・洗う、すすぐ、仕上がり、仕上げ後という各段階に、五感から刺激する仕掛けを組み込んだ。
そして、パッケージデザインやブランドサイトで、花王100年の研究史や世界初の5大必須成分配合、約12倍のヘアケア成分など、こだわりがひと目で伝わるビジュアルを採用した。
山岡氏は、商品開発における一貫性を生み出すための環境作りにも言及した。これまでは、商品研究・開発、デザイナー、マーケティングと分業体制を取っていたが、本プロジェクトでは、企業・部署の垣根を越えたメンバーが集うスクラム組織を組成したという。
「ワークを通して制作過程や苦労を見ることで、それぞれの立場へのリスペクトが生まれ、意見を素直に交わせる空気感が育まれていきました。また、理解が進むことで全員の視点が高いレベルで揃い、よりシャープな一貫性を構築できたと感じています」(山岡氏)
変化への対応:SNS上の声を即座に反映、施策化
アジャイルな組織体制は、商品開発にとどまらない。商品発売後は、SNS上のオーガニック投稿の声をリアルタイムで収集し、毎週PDCAを回す体制を構築している。
この体制を構築した背景として、野原氏は「オーガニックの声とシェアには完全に正の相関がある」ことを挙げる。
「我々のメッセージを広告で発信するだけでは難しく、オーガニックの声自体がシェアと最も相関があると考えています」(野原氏)。
ただしオーガニック投稿は広告と違い、企業がコントロールすることは難しい。そこで、「変化への対応」が重要となってくる。オーガニック投稿から、生活者が注目する要素を発見し、コミュニケーションを磨き上げることで対応する。
高速PDCAサイクルを回す上で、まず発売前にチェック指標を仕組み化した。その1つに、タッチポイントとTHE ANSWERが生活者へ伝えたいメッセージ(What to say)を掛け合わせて評価し、優先順位を整理した表がある。
そして発売後は、どのメッセージを、どのタッチポイントで当てていくとワークするか、その仮説を持って毎週発話を確認すると、特徴的なワードが出てくるのだという。
山岡氏は、具体例として、同製品独自の洗い方「塗り洗い」を挙げた。実は発売当初は、成分や技術面を優先的に訴求する計画だった。しかし発売後にオーガニック投稿を分析すると、「塗り洗い」に対する反応が予想以上に大きかった。
「チームでは、単に単語が新しいというだけでなく、何か伝えたいメッセージにつながっているのでは?と考え、さらに検証を進めました。すると『理にかなった洗い方だ』という発話が元となっていることがわかったのです」(山岡氏)
そこで、「塗り洗い」という新規性、他との明確な差別性、そして「多量の成分を届ける」という意義性(納得性)の3点が揃っていることから、これがブランドロイヤリティにつながると判断。すぐに「塗り洗い」をフィーチャーしたコンテンツを追加制作し、より直感的に訴える動画を展開した。
このPDCAサイクルでは、発話された内容をそのまま受け取るのではなく、その裏にある生活者の言葉にならない感情を捉え、共有することが非常に重要だと山岡氏は振り返った。
「生活者の潜在的な声を感覚的に共有し、意見を共鳴させ合い、すぐに実行まで進められるのは、スクラム組織ならではのメリットです。しかしそれには、全員でデータを分析しながら、感じたことを意見出しする空気感作りが重要です」(山岡氏)
