ミドルマネジメント層は「サーバントリーダー」に
ヘアケア事業変革では、花王が得意としてきた従来までのマスマーケティングとは違い、小さな施策を実施し高速でPDCAを回すアジャイルな体制を取ってきた。
これにより、ミスを多く経験しながら変化に対応し、利益につなげる。このモデルは、同社内で「孵化・成長化・利益化モデル」と呼ばれており、他ブランドや他カテゴリーへの適応拡大も行われているという。
しかし、組織体制を変更したことで新たな課題も生じたという。野原氏は、その1つとしてミドルマネジメントの存在意義を挙げた。
「スクラム組織は現場と上層部をつなぎ、迅速な意思決定を進める取り組みです。そのため、現場の管理を担ってきたミドルマネジメントが蚊帳の外となってしまう問題がありました」(野原氏)
そこでミドルマネジメントの役割を見直した結果、若手のメンターとして自由で活発なアイデアが生まれるようサポートを行う「サーバントリーダー」になることが重要だと結論づけた。
花王ヘアケア事業のこれから
山岡氏は、「“100年の答え”を、これからどう磨いていくかが今のミッションです。ミッションの追求を通じて、ヘアケア迷子の方を少しでも救っていきたいです」と今後の抱負を語った。
また野原氏は、花王のヘアケア事業の未来を語った。
「各ブランドがそれぞれの感情を動かすことは、人の生きる力を支えることにつながります。しかしそれは、チームが輝きながら働くことが基礎となります。これからもメンバーがワクワクできるような、環境作りや支援を行っていきたいです」(野原氏)
花王のヘアケア事業変革は、単なる商品開発やマーケティング手法の転換にとどまらない。感情に基づくブランドポジショニングで「一貫性」を担保し、スクラム組織とアジャイルなPDCAで「変化への対応」を実現する。
この両軸を支えるのは、制作過程を共有し合うことで生まれる「リスペクト」と「理解」、感性を言語化し意思決定する文化だ。そしてVUCA時代のマーケティングにおいて、完璧な計画よりも重要なのは、変化に応じて最善を作り続ける「仕組み」と「チーム」なのかもしれない。
花王ヘアケア事業の挑戦は、多くの企業にとって示唆に富む事例となるだろう。
