リアルタイムで市場や消費者の状況を見られているか?
「皆さんは、どの程度“リアルタイムで”市場の状況を把握し、意思決定をしていますか?」
冒頭、田中氏は聴講者に向けて問いかけた。自社の現状を把握するため、アンケートデータや売上実績など、“過去の内部データ”を分析する場合が多いが、それは「バックミラーを見ながら運転しているようなもの」だと田中氏は言う。

「SNSなど“外部”のデータを“リアルタイム”に漏らさず収集することで、市場で起きている危機的な状況や、売り上げを左右するような消費者の声を把握し、スピーディーな意思決定とアクションに繋げることができます。常に変わっていく市場の状況を把握しながら、“運転”していくことが重要なのです。この講演では、SNSの声を単なるモニタリングではなく、意思決定をするためにどう活用していくべきかをお伝えしていきます」(田中氏)
メディアの細分化が進む中、デジタル上の膨大なデータを収集・分析できるMeltwaterとは
具体的なメソッドの解説に入る前に、現在の情報環境の“複雑性”を改めて確認しておきたい。
従来の情報拡散のプロセスは「マスメディア型」で、企業やブランドから消費者へと、一方向で流れていく時代だった。それが現在は「シミュラークル型」、要はすべての人が発信者にも、受信者にもなれる環境に変わっている。
その背景にあるのは、SNSの利用拡大。日本でもSNSの利用者数、利用時間はともに大きく増加しており、SNS利用者のID数は9,600万に。実は、日本人のXの1人当たりの利用時間は全世界で1位、YouTubeの1人あたりの利用時間は全世界で3位となっている。さらに、SNSは「購買行動に大きく影響する」という特徴があり、発見~検討~購入直前~購入後のシェアと一連の段階で利用されている。だからこそマーケティングでSNSの影響力は無視できない。
このように重要なSNS上のデータも含め、膨大な外部データを世界の3万社以上に提供しているのが、Meltwaterである。全世界のニュースやテレビ番組、SNS、検索エンジンなどの膨大なデータをリアルタイムで収集・分析し、意思決定につなげる支援を行っている。「ソーシャルリスニング」ではなく、「意思決定支援」のカテゴリに自社を位置付けている点が特徴だ。

加えて注目したいのは、Meltwaterが提供できるデータの“量”。テレビやオンラインニュースなど従来メディアのデータに加え、各ソーシャルメディア、検索データ、直近で言うと生成AIでの検索データも提供しており、企業は情報を取りこぼすことなく収集することができる。

SNSインパクトは「ポジティブ」にも「ネガティブ」にも作用する
では、SNSの“声”が企業に与えるインパクトとは、具体的にどのようなものなのか。田中氏は、SNSの「ポジティブな影響」と「ネガティブな影響」について解説した。
まずは、SNSが事業にもたらすポジティブな影響について。わかりやすいのは「SNS上でバズ」が起きた時のインパクトで、バズの発生により商品の短期売上が増加したり、好意的なUGCの蓄積からエンゲージメントの向上に繋がったりする。他にも、SNSの属性データをもとに、消費者の声を分析することで、新規ペルソナや潜在的なニーズの開拓も可能になるだろう。

一方、SNS上の声はネガティブな影響をもたらす場合もある。たとえば、SNS上で炎上が起きてしまうと、来店や予約のキャンセルによる売り上げ機会損失、広告出稿停止やカスタマーサポート・法務などの臨時コストによる収益圧迫といった影響が発生してくる。加えて、誤情報が出回るリスクも大きい。
田中氏は、こうした両義的なSNSインパクトをビジネスインパクトへと変換するために、4つのステップからなる「仕組み」を導入するとよいと話す。ポジティブとネガティブ、どちらのインパクトに対しても同じ仕組みで対応できるという。
SNSデータの利活用が進展する4つのステップ
SNSデータの利活用について、田中氏は「集める」「揃える」「解く」「AI活用」の4ステップを紹介した。

ステップ1:集める
最初の「集める」ステップでは、ブランドや商品に関する投稿をすべて収集することが重要となる。自社に関するSNS上の声を収集する際、「XやInstagramで商品名を検索している」人も多いかもしれない。だが、この方法では情報収集に偏りが出てきてしまうと田中氏は指摘する。
「XやInstagramで自社名や商品名を検索している企業も多いのですが、これは危険です。SNSの最適化アルゴリズムによって、見たくない情報やあまり検索されない内容は遮断されてしまうため、実はその方法ではすべての情報を捉えられていません。結果、得られる情報が偏ってしまいます」(田中氏)
だからこそ、Meltwaterのような外部データ提供企業を通して、データを全量で収集することが大事になってくるのだ。
ステップ2:揃える
次に「揃える」ステップでは、客観的にデータを分析するための“共通言語”を構築する。SNSには指標となりうる様々な数値があるが、その意味や重みを決めることが必要だという。たとえば、「エンゲージ」とひとくくりにされる指標も、「いいね」と「引用リツイート」ではその重みが大きく異なる。各指標の意味付けを統一し、KPIを設計しておくことで、SNSデータをもとにした判断・意思決定ができるようになる。

ステップ3:解く
3つ目の「解く」ステップでは、収集した情報を分析する際の“型“を見つけていく。
たとえば、UGCの実態を掴むためには、その商品に関して単発で投稿されているのか、長期にわたって何回も投稿されているのか分析することが有効だ。他にも、インフルエンサーによる投稿でとどまっているのか、インフルエンサーによる投稿から一般の消費者による投稿まで広がっているのかを可視化するなど、把握したいことに対して必要な「分析の型」を作ると、傾向を読み解きやすくなる。またこれらが、分析レポートやダッシュボードの型にもなってくる。
ステップ4:語る(AI活用)
最後のステップはAI活用だ。分析結果の背景、要は「なぜ?」を抽出するためには、SNS投稿を一つひとつチェックし、投稿されている画像や文章の内容、方向性、スタンスなどを見ていかなければならない。ただ、それをすべて人力で行うのは非現実的だろう。
現在のAI技術を使えば、投稿内容やテーマの抽出、スタンス・論点(賛否/要望/不満)の分類などを自動で仕組化できる。さらに、AIが抽出した内容を関係者へ一斉送信するところまで仕組化すると、意思決定およびアクションがよりスピーディーになる。
SNS分析から売上予測・在庫管理に成功した化粧品会社の例
前のページで紹介した4つのステップは、ポジティブとネガティブ、どちらのSNSインパクトに対しても対応できるものだ。田中氏は、両方の事例を紹介した。
まずは、SNSデータを在庫管理に活用した化粧品会社の事例。この企業では、インフルエンサーが商品に関して投稿すると、想定需要が爆発的に増える。しかし、各店舗の在庫量をPOSデータなどに基づいて決めていたため、需要が増加しても、在庫量を増やすまでに2~3日を要し、売り切れなどの機会損失が発生していた。
その課題を解決するためには、数千もの商品が「いつ売れそうになっているか」を把握するためのデータ基盤整備が必要だ。そこで、商品名を含むSNS投稿を取りこぼさず収集し、消費者の投稿パターン分析や無関係なデータの除去などに対応した(ステップ1:集める)。

また、収集したデータをもとに、投稿数や引用リポスト数などKPIを可視化し「商品のSNS上での話題化」をリアルタイムで把握できるようにした(ステップ2:揃える)。田中氏は「このようにSNSデータと実際の売り上げデータを統合することで、“確からしさ”を担保できる」と説明する。
さらに、分析の型を作り、商品に関してインフルエンサーだけが一方的に投稿しているのではなく、一般の消費者も話題にしているかを把握。ここまで分析していくと、「この商品は本当に売れそうだ」とわかるようになったという(ステップ3:解く)。
そして最後のステップでは、商品をどのような理由で購入したか、裏付けの投稿をAIで収集・分析。実際にそれらの投稿を確認できるようにした(ステップ4:語る-AI活用)。
まさに社内の意思決定の確度を上げ、売り上げ機会の最大化につなげた事例だ。
“炎上”のリスクスコアを可視化しているエンタメ企業の例
2つ目は、ネガティブインパクトを分析・評価し、信頼を守ることに活用したエンターテインメント企業の事例である。
SNSでの炎上は、商品やブランドの不買運動にまで発展するケースも珍しくない。しかし、企業のリスク関連部門からは「そういう時に何をするべきか、決められない」「状況の把握が難しい」といった課題があがるという。経営陣にリスクに関する情報提供をする際にも、評価軸が未整備であるため、どの程度のリスクがある場合に広告出稿停止や記者会見などの対応をするのか、判断できないケースも多い。
こうした課題に対し、田中氏は「属人的な環境の改善」を提案する。そのために重要なのが、リスクの数値化。炎上に関する投稿件数や投稿者数、インプレッション数などに応じてリスクスコアを設定し、“意思決定するための基準”を設けるのだ。
「炎上事象に対するリスクや危険の度合いを点数化しておけば、何点以上になったら緊急記者会見を開く、というように定量的な判断軸を設定できます」(田中氏)

この企業の場合は、製品名やブランド、通称にリスク語彙を掛け合わせてクエリを生成し、主要SNSを横断して完全ログを収集することから着手した(ステップ1:計測)。
次は、リスク評価のためのスコア制度の設計。具体的には、「投稿件数」「投稿者数」「インプレッション」など指標別にリスクの重みづけをし、リスクをスコア化するための仕組みを構築した。これにより、たとえば、スコアが70点以上なら“非常に重大”と判断しトップ声明や緊急会見を推奨、50〜69点なら広告停止や取引先調整、30〜49点なら公式リリース、29点以下なら静観というように、対応方針が明確になった(ステップ2:定義)。
さらに、現在の炎上レベルがどの程度なのかを客観的に判定できるよう、他の炎上事例と比較してリスク評価できるように。判断するためのベンチマークを設けることで、より迅速な対応が可能となる(ステップ3:要約)。
こうしてリスクスコアを把握した上で、世間の論調や拡散の状況、消費者のエンゲージメントレベル、批判者の属性などをまとめた社内報告資料をAIで自動生成し、意思決定に活用しているという(ステップ4:共有)。
SNS上の消費者の声を経営判断に活かすメソッドまとめ
最後に田中氏は、SNS上の声を経営判断に活かす上で重要なポイントを3つまとめて示した。
1.意思決定の土台となるデータ基盤の重要性:第一に全量・横断・長期で収集することが重要。その上で、重複・ボットなどを除外し、再現ログまで整え、外部シグナルを欠落なく蓄積できる基盤を整備する
2.関係者の目線を揃える「共通言語」の確立:投稿量やエンゲージの内訳など各指標を重みづけし、KPIとして数値化することで、意思決定に関わる人間の目線が揃う
3.AIによる分析結果の「ストーリー化」:分析の内容を踏まえ、「文脈の要約×実際の投稿例」をセットで自動生成、さらに関係者へ一斉配信されるような仕組みをAIで構築。これにより合意とアクションが速くなる
「このような環境を整えられれば、今回紹介した事例のような取り組みが皆さんの企業でもできるはずです」と田中氏。SNSの影響力が大きくなった今、投稿をモニタリングするだけではなく、「経営の意思決定に活用する」という意識で向き合うことが重要になっていくのだろう。
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