ECに課せられた5億円の収益改善、実現に向けた9つの施策とは?
TSIがECリニューアルで目指したのは、売上回復に加え、EC統合とシステム刷新によって5億円の収益改善を実現することであった。11ヵ月という短期間でこの目標を達成するために、TSIはShopifyへの移行やアプリの統合など、9つの施策に取り組んだ。
中でも、9つに分かれていたメンバーズサービスを1つに統合する際には、ブランドごとに顧客層や単価、ランクテーブルが全く異なる中で「相当大変だった」という。TSIは年代ごとに幅広いブランドを抱えており、上位顧客のサービス条件を下げ、新規顧客が入りやすい条件へと再設計した。
この大規模プロジェクトを遅延なくローンチできた要因として、岸氏は「徹底したスケジュール管理」と「ゴール視点での計画修正」、そして「実行力の高いパートナー選定」の3点を挙げた。
特にPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を外部に委託し、スケジュールを厳格に管理したことが大きかったという。また、Shopifyはサービスの追加やデザイン調整が容易なため、「ローンチの前日にもサイトを改修した」と、アジャイル開発の柔軟性を活かせた点を強調した。サイトはローンチ後も改善を続け、一度も停止することなく稼働している。
結果として、収益改善に関しては目標の5億円を削減できた。
効率化から創造まで、AI活用の可能性
続いて、渡辺氏と岸氏は今後のEC収益を高めるカギとなるAIについて議論した。EC事業におけるAI活用は、単なる業務効率化に留まらない。TISでは、AIが「付加価値の向上」「オペレーションの効率化」「データ駆動型の意思決定」の3つの領域に活用が進んでいくと予測している。TISが実施したアンケートでも、AIに期待する役割として「業務効率化」が最も多かった。
TSIも、画像生成AIを活用したコーディネート画像の生成に取り組んでおり、「気に入ったコーデを選んでもらい、類似の販売商品を当てていく仕組み」は、ECサイトにおける回遊性やクロスセルを高める狙いがあるという。
さらに興味深いのは、上流の戦略・企画領域におけるAI活用だ。「NAVYNAVY」という取り組みでは、1名のディレクターと22名のAIエージェントが共創し、ブランドを立ち上げている。AIは高い精度でクリエイティブやペルソナを生成し、人のクリエイティビティを拡張する可能性を示す事例となりそうだ。
岸氏は「もう誰でもデザインができる時代になっている」とし、AIがデザインを担う時代になれば、人の役割は「売る力」へとシフトしていくと予測した。
パネルディスカッションでは、Shopifyに標準搭載されたAI機能「Sidekick」のデモも行われた。ユーザーがプロンプトで指示を出すだけで、「9月に注文した顧客」といった特定のセグメントを自動で作成し、そのセグメントに向けたキャンペーン名やメール本文を生成する。さらに、割引設定まで自動で行うことが可能である。これにはTISの渡辺氏も驚きを隠せない様子であった。