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生成AIブランド戦略の幕開け──Anthropic “Keep thinking”キャンペーンの衝撃

 生成AI企業が自らのブランドキャンペーンを展開する時代が到来した。これまでAI企業の広告といえば、API提供やBtoB向けの機能訴求が中心であり、消費者に直接「ブランド」として語りかけることは稀であった。しかし2025年9月、Anthropicが発表したブランドキャンペーン“Keep thinking”は、その常識を覆すものとなった。「AIは人間の思考を置き換えるのではなく、補助する存在である」というシンプルなメッセージは、テクノロジー業界だけでなく広告・クリエイティブ業界にも波紋を広げた。広告そのものがニュースとして扱われたことも、AI企業の発信としては異例である。生成AIのブランド戦略は新しい段階に入ったといえる。

生成AI市場とブランド戦略の必然

 ChatGPTの爆発的普及以降、生成AIは一般層の生活にも浸透した。GoogleはGeminiを検索やYouTubeなど既存の巨大サービス群に統合し、Amazonは広告やECに直結する生成AI機能を拡充している。いまや市場には複数の大手プレイヤーが並び、機能や性能の差だけでユーザーを引き付けることは難しくなってきている。

 その中で浮上したのが「ブランドの差別化」である。どの企業も高性能なモデルを持つ時代に、ユーザーは「そのAIがどんな価値観を持ち、どんな存在であるか」を重視し始めている。Anthropicはまさにこの文脈で、「安全」「倫理」「思慮深さ」を核に据えたブランドメッセージを打ち出した。単なるテクノロジー競争からブランド競争へ、生成AI市場は大きな転換点を迎えている

Anthropic “Keep thinking”

Keep thinking クロードと一緒に考え続けよう

 Anthropicが発表したブランドキャンペーン “Keep thinking” は、同社にとって初の本格的な大規模広告展開である。制作を担当したのはロンドン拠点のクリエイティブエージェンシー Motherであり、映像は90秒のフィルムを中心に構成されている。映像はテレビやYouTubeなどのオンライン動画、さらには屋外広告やSNS広告といったマルチチャネルで展開され、グローバル規模での露出が図られた。

 このキャンペーンのコピーは極めてシンプルである。「Keep thinking(考え続けよう)」という言葉は、AIの性能や機能を前面に押し出すのではなく、人間の知性や思考こそが中心であることを強調する。Anthropicは、自社の生成AI「Claude」を人間の思考を置き換える存在ではなく、あくまでそれを補助する「パートナー」と位置づけている。映像はモノトーンを基調とした静謐なトーンで、人間が思考する姿や日常的な問いかけを淡々と映し出す。過度にテクノロジーを誇示せず、むしろ人間性を際立たせる演出が特徴的である。

 キャンペーン発表後、この映像広告は業界メディアやテクノロジー関連ニュースで大きく取り上げられた。AxiosやCreative Reviewなどのメディアは、生成AI企業が消費者に向けてブランド哲学を直接訴えるのは極めて珍しいと指摘した。特に「AI広告がニュースになる」という現象自体が、新しい時代の到来を象徴していると評価されている。

 さらにこのキャンペーンは、企業メッセージとしての側面だけでなく、規制当局や投資家に対するシグナルとしても解釈された。AIの安全性や倫理的側面が国際的に議論される中で、Anthropicは「責任あるAI企業」という立場を強調し、信頼の獲得を図ったといえる。

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なぜ“Keep thinking”は心に響いたのか?

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この記事の著者

岡 徳之(オカ ノリユキ)

編集者・ライター。東京、シンガポール、オランダの3拠点で編集プロダクション「Livit」を運営。各国のライター、カメラマンと連携し、海外のビジネス・テクノロジー・マーケティング情報を日本の読者に届ける。企業のオウンドメディアの企画・運営にも携わる。

●ウェブサイト「Livit」

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/10/01 08:00 https://markezine.jp/article/detail/49940

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