「AIペアプログラミング」から考察する、人と生成AIの協働の形
これら2つの論文に対し、残り3つの論文は、組織やより業界全体における生成AIの可能性を議論しています。生成AIは組織の中で実際にどのように利用されるのか、評価されるのか、そして業界全体において、今後生成AIはどのようなインパクトを持ち得るのか。いずれも多くの人々が知りたい内容でしょう。
立命館大学 依田祐一教授、日高優一郎教授の「ソフトウェア開発における人と生成AIの協働の革新」では、人と生成AIが協働する新たな方法であるAIペアプログラミングによるソフトウェア開発の実践を対象に、特に暗黙知に着目し、人と生成AIの協働の方法について考察しています。
彼らは、「生成AIベースのITケイパビリティ」と呼称し得る新たな組織能力の萌芽を特定しようとします。重要になるのは、人と生成AIという異なる知の主体間における双方向の知識移転プロセスの相違です。
具体的には、生成AIが解釈可能な方法で暗黙知を含めて効果的に形式知化される能力およびその限界の認識、並びに生成AIが生成したコードなどの形式知の根拠について人が文脈とともに能動的に解釈・評価し内面化していく能力です。エキスパートに対するインタビュー調査の結果、人と生成AIの協働において、知識創造論が注目してきた暗黙知の重要性とともに、組織としての対応や人材教育への能力の重要性が提示されます。

人事業務における生成AI活用の実態
東洋大学 西村孝史教授は、「人事部門にとって生成AIは敵か味方か」にて人事部門に携わる実務家に2時点のインターネット調査を実施し、人事業務における生成AIの活用実態を明らかにしています。本論文では、先行研究に基づいて、人事部門が生成AIをどの程度活用しているのかを把握するための項目も作成されています。
分析の結果、第一に、人事部門にとって生成AIは今のところ「味方」であり、高業績ワークシステムの補完的な機能や人事事務の関係性を向上させることで組織成果に寄与しており、生成AIが高業績ワークシステムの運用部分を担っていることが示されます。第二に、生成AI支援型の人的資源管理は、新しいタイプの高業績ワークシステムになり得るともされます。
ただし、人事部門の持つ生成AIの知識は脆弱であり、一部の大手や先進的な企業を除き生成AIの活用は進んでおらず、見通しについても懐疑的で生成AIに全面的に切り替わることは想定されていません。
生成AIのマーケティング・コミュニケーション活用を考える
最後に早稲田大学大学院 及川直彦客員教授とWeights & Biases 鎌田啓輔 AIソリューションエンジニアの「生成AIがマーケティング・コミュニケーションにもたらす変化 ― ブランド企業とプラットフォーマー・消費者の間の力関係はどうなるか ―」では、生成AIのマーケティング・コミュニケーション(MarCom)における活用法と、それらの普及がブランド企業、プラットフォーマー、消費者にもたらす影響と力関係の変化を検討しています。
まず、MarComサービスの提供者側であるブランド企業やプラットフォーマーにおいて、生成AIは個別対応の自動化と最適化に活用されます。消費者においては、MarComサービスの利用者側でブランド選択や問題解決に利用されます。
これらの利活用がもたらす影響により、「特定のプラットフォーマーへの集中」「複数のプラットフォーマーとブランド企業の分散的な使い分け」「消費者主導のプラットフォーマーやブランド企業との関係の再編」が生じることになります。本論文は、生成AIのマーケティングや経営における意味合いについて議論を活性化させ、今後のビジネスの可能性を広く押さえています。
これらの5つの論文は、いずれもこれからの生成AIの可能性を示しています。研究としても、定量研究はもちろん、定性研究やシナリオ考察といった多様な方法が駆使されており、これから生成AIを対象としてアカデミックに研究を進めたいという場合にも参考になるでしょう。
「生成AIがあるからもはや人間は不要だ」と言われる時代です。研究はもとより、仕事でも日常生活でもそんなことを言われないためにも、私たちが研鑽を積む時です。
