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老舗シャンパーニュ メゾン「ペリエ ジュエ」が実践するCRM 体験設計~検証まで顧客とつながるO2O

 生活者の趣味嗜好が細分化・多様化する昨今、顧客の拡大からロイヤルティ向上までの一連をどう実現するかはブランドの重要テーマだ。特に飲食業界では、売り上げの大半がオフラインの場という性質上、デジタル化が進む中O2OによるCRM施策が重要となる。本記事では、創業200年を超えるシャンパーニュ メゾン「ペリエ ジュエ」を国内展開するペルノ・リカール・ジャパンのLINEを軸としたCRMの取り組みを取材。顧客をオンライン接点からオフラインイベントにつなげる良質な体験設計と、それを実現するデータ基盤の構築について掘り下げ、継続的に顧客ロイヤルティを築くヒントを探った。

ブランドの世界観を軸に上質な体験を提供

MarkeZine編集部(以下、MZ):本日はペルノ・リカール・ジャパンの「ペリエ ジュエ」のお取り組みについてうかがいます。はじめに、ブランドのご説明をお願いします。

森川:ペリエ ジュエは、プレミアムスピリッツ市場において世界No.1のペルノ・リカールが展開する、創業200年を超えるシャンパーニュ メゾンです。プレステージ・シャンパーニュとして、高品質な味わいと「自然とアート」をテーマにした世界観を体現しています。

ペルノ・リカール・ジャパン株式会社 マーケティング部Digital CX acceleration manager 森川美結氏
ペルノ・リカール・ジャパン株式会社 マーケティング部 Digital CX acceleration manager 森川美結氏
複数ブランドのCRM戦略策定と実装、DX推進やLINEを活用した新CRMシステム開発をリード。キャンペーンの最適化と顧客体験の向上、デジタル戦略の構築から実行までブランド横断でCX全般を担当する。

MZ:マーケティング戦略では、どのような点を重視していますか。

森川:シャンパーニュは飲んでこそ魅力が伝わるため、レストランやポップアップイベントといったオフラインでの体験提供が重要です。レストランでは年間40回前後のペアリングイベントを開催しています。

 ポップアップイベントは毎年実施しており、入場無料でブランドのコアなファンから新規の方まで広く参加いただいています。2025年もブランドの世界観を体現する会場で、今期のコラボアーティストのアート作品の展示やシャンパーニュ ブランドアンバサダーによるテイスティングセミナーを、10月下旬に表参道にて開催しました。

2025年10月21〜26日の期間限定で表参道にて行われたポップアップイベント「THE HOUSE OF WONDER」。フランス・エペルネにあるペリエ ジュエの迎賓館「メゾン ベル エポック」を彷彿とさせる空間でブランド体験を提供した
2025年10月21〜26日の期間限定で表参道にて行われたポップアップイベント「THE HOUSE OF WONDER」。フランス・エペルネにあるペリエ ジュエの迎賓館「メゾン ベル エポック」を彷彿とさせる空間でブランド体験を提供
会場2階には、今期のコラボレーションアーティストであるマルシン・ルサック氏のアート作品を展示。イベントでは同氏が手掛けた限定デザインボックスをも先行販売された
会場2階には、今期のコラボレーションアーティストであるマルシン・ルサック氏のアート作品を展示。同氏が手掛けた限定デザインボックスも、イベントで先行販売された

森川:ポップアップイベントでは、アート展示はもちろん、テイスティングセミナーも開催。クラシックラインからヴィンテージラインまで幅広いラインアップを用意し、飲み比べができるセミナーのチケットも販売しました。バースペースに加えて、シャンパンクーラーやグラスなど関連アイテムを扱うブティックスペースも提供し、イベントは大盛況でした。

 ポップアップイベントの告知をする初期接点は、主にYouTubeやMetaの広告です。女優の新木優子さんにアンバサダーを務めていただき、ブランドの世界観を伝えるためのブランドムービーも制作しました。

関係構築と新規開拓の両立を目指し、LINEを起点にイベントへ誘導

MZ:今回お話をうかがう取り組みについて、まずは背景を教えてください。

森川:当社では、オンラインメンバーシッププログラム「マイ ペリエ ジュエ」を通じたイベントの開催を行っています。イベント自体の満足度は高いものの、その後の関係構築・継続に課題がありました。

 元々は参加者に紙のカードを配り、必要事項を記入いただくことで参加履歴データが溜まる仕組みでした。しかし、お酒を提供する場でそのようなご対応をいただくのはお客様の負担の面でも、データの正確性の面でも効果的ではないため、より適切にお客様とつながり続ける仕組みを模索していました。

 また、イベント参加者のターゲットを広げたいという課題がありました。これらの背景を踏まえ、既存顧客との関係強化だけでなく潜在層の新規獲得も見込めるコミュニケーションチャネルとして、LINEを活用することに決めました。既存顧客向けのCRM施策と並行して、まだ飲用体験がない新規層にはLINE公式アカウントを通じたポップアップイベント告知などの情報発信を行いました。合わせて、デジタル広告からLINEへの導線も整備しました。

接点作りと関係構築を実現する、2つの戦略とは

MZ:取り組みを支援された電通および電通デジタルにお聞きします。課題に対して、どのような戦略を立てたのでしょうか。

工藤:ペリエ ジュエの課題は、熱量の高い顧客との接点をどう生み出し、どう継続させるかにあると捉えました。カギとなるのはO2O(Online to Offline)のCRMの実現と考え、2つの戦略を掲げました。

 1つ目は「体験の場の統合」です。オンラインとオフラインを行き来しながら、統一した世界観を体験できる接点を多面的に作り、熱量の高い顧客とつながり続ける場の創出を目指しました。

 2つ目は「体験の時間軸の統合」です。イベント参加者は、2週間ほどでその記憶が薄れるという調査データもあり、せっかく上質な体験を提供しても、一過性で関係が終わってしまうのは非常にもったいないですよね。そこで、短期的にはイベント前・中・後をつなぎ、中長期では直近3ヵ年のイベント参加情報を線でつないでいき、継続的な体験として蓄積できる基盤作りに取り組みました。

株式会社電通 第6マーケティング局 CXコンサルティング1部マーケティングコンサルタント工藤亮氏
株式会社電通 第6マーケティング局 CXコンサルティング1部 マーケティングコンサルタント 工藤亮氏
電通のマーケティング局に所属し、企業やブランドの戦略設計から実装まで一気通貫でサポートする。本プロジェクトではLINEを通じた顧客体験全般の戦略設計や推進を担当。

データを“つながり”の資産へ──3年間で進化したCRM

MZ:LINEを軸としたデータ利活用の取り組みの詳細を教えてください。

共田:LINEを軸とした施策は、2023年に開始して2025年まで3年間にわたり、段階的に改善を重ねてきました。1年目は、まずポップアップイベントの来場者をデータで捕捉することから開始。最初に重要視したのは、顧客とつながり続けるためのデータ基盤の構築です。そのため、来場チェックイン機能を実装し、来場者をトラッキングできる仕組みを作りました。

 2年目は、1年目の取り組みを発展させ、LINE上でポップアップイベントの予約・決済・来場チェックインまでを一気通貫で行える仕組みへと拡張しました。これは決済完了と同時に自動的にマイ ペリエ ジュエの会員登録が行われる仕組みで、ポップアップイベントの参加が会員登録の増加につながるように設計しています。

 3年目である2025年は、イベント参加者のターゲットを広げる目的で、LINEの友だち数とマイ ペリエ ジュエ会員数の増加を目標に据えました。8月からプレゼントキャンペーンなどの新しい特典を追加し、10月開催のポップアップイベントに向けて集中的に施策を実施してきました。

株式会社電通デジタル ソーシャルエンゲージメントデザイン部門LINEプランニング部CXプロデューサー・グループマネージャー 共田光恵氏
株式会社電通デジタル ソーシャルエンゲージメントデザイン部門 LINEプランニング部
CXプロデューサー・グループマネージャー 共田光恵氏

ソーシャルメディア全般を扱う部門に所属。10年以上LINE領域に携わり、顧客体験の設計から開発まで担う。本プロジェクトでは戦略にともなうUI設計とシステム構築を行っている。

MZ:LINEを軸とした施策によってデータ管理方法はどう変わりましたか。

共田:以前はイベントごとにデータが存在・分散していたため、活用しきれていなかった側面がありました。LINEを活用することで、友だち情報とマイ ペリエ ジュエの会員情報を紐付け、統合的に分析できるようになりました。会員のロイヤルティを定量的に把握するためのダッシュボードも構築し、現在地を正確に確認しながら運用できる形になっています。

森川:誰がどのイベントに行き、何を何杯飲んだのか。シャンパーニュのヴィンテージごとに、詳細なトラッキングが可能となりましたね。

共田:加えて顧客自身も、飲んだシャンパーニュを「イベントダイアリー」としてLINE上で確認できます。自分だけの履歴として見返せるので、イベント体験がより自分ごと化されるのではないでしょうか。

 一連の取り組みは、マーケティング戦略を立案する戦略プランナーと、UI/UX設計からシステム開発まで担うプロデューサーが二人三脚で支援する体制を整えられたからこそ実現したと思います。電通グループの強みである各領域のエキスパートの連携で、戦略から実装まで一貫した支援が可能となっています。

良質な体験設計から検証まで、PDCAを回せるデータ基盤を実現

MZ:今回の取り組みの成果を教えてください。

工藤:まず挙げたいのは、データ基盤を構築したことで過去のデータを振り返れるようになった点です。蓄積したデータを基に顧客理解を深め、今後どのような体験設計を行うべきかを、ペルノ・リカール・ジャパン様と目線を合わせて議論できるようになりました。同様に、データを用いた施策の投資対効果を検証できるようになった点も大きな成果ですね。

共田:施策を通じて、LINEの友だち数とマイ ペリエ ジュエ会員数はいずれも目標値を達成しました。ブランドの世界観に深く触れていただいたことで、ロイヤルティの高い顧客を多く獲得できました。実際にLINEのブロック率は2024年と比べて約10%減少しており、満足度の高い体験提供につながっています。

森川:飲料業界では、売り上げの多くがレストランでの提供といったオフラインの場で生まれます。その中で売り上げを作っていくため、O2OでのCRMに注力すべきだと以前から考えていました。

 飲用回数が増えれば、必ずペリエ ジュエを好きになってくれる方が増える確信はありましたが、これまで具体的な数字として根拠を示すことはできていませんでした。今回、LINEを通じて「誰が何回来場し、どれくらい購入しているか」まで可視化したことで、効果を定量的に把握できたのは大きな手応えです。

 さらに、ロイヤルティの高い顧客がフェーズごとにどれだけ存在するのか、より深いフェーズに育成できた場合どれほどの規模になるのか、といった試算も可能になりました。将来的にスケールさせる際の目標設計がしやすくなった点も重要な成果です。

 また、会員向けの情報発信は元々メルマガ施策が中心でしたが、LINE公式アカウント導入後はアクティブ率が大幅に高まりました。改めて、お客様との密な接点作りにおけるLINEの強みや価値を実感していますね。

LINEを顧客にとって“必然性のある接点”へ

MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。

森川:CRMは短期で完結する取り組みではなく、3年目の現在も発展途中です。CRMで重要なのは、ツール導入だけでなく、運用を担う“人”がいなければ継続できないこと。誰かが抜けても運用が止まらず、全員で回せる体制を電通グループ様支援のもと築けたことで、長期間質の高い運営を実現できています。

共田:深い顧客理解をもとに、LINEを通じてさらにリッチな体験を提供していきたいので、今後もUI/UXの改善やアップデート、機能拡張を進めていく予定です。イベント来場者が体験を思い出として見返せる場という価値を提供して、ニーズに応えられる情報を届けることも大切です。LINEをお客様にとって“必然性のある接点”に高めていきたいです。

工藤:今後も森川さんが掲げるO2OのCRM実現に向けて、引き続き伴走していきたいです。熱量の高い顧客とつながった先に、イベントへの送客や購入までいかにスケールさせていくかがカギになるため、取り組みをよりインパクトあるものへと高めていきたいですね。

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この記事の著者

太田 祐一(オオタ ユウイチ)

 日本大学芸術学部放送学科を中退後、脚本家を目指すも挫折。その後、住宅関係、金属関係の業界紙での新聞記者を経て、コロナ禍の2020年にフリーライターとして独立。現在は、IT関係を中心に様々な媒体で取材・記事執筆活動を行っています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通デジタル

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/12/12 11:00 https://markezine.jp/article/detail/50014