問い直し(2):どんな姿を目指すか?─目的達成に向けて理想とする姿の設定─
前項では、企業ブランディングを推進するうえで、「誰に何をしてほしいのか」を起点に目的を設定し、優先順位を明確にすることの重要性を述べた。しかし、それだけでプロセスが完結するわけではない。次に求められるのは、対象とするステークホルダーに「どう見られたいのか」という自社として目指す姿、そして「そのために自社のどのような提供価値を伝えるべきか」を整理し、言語化するステップである。
この過程では、自社の経営理念や中長期の経営戦略、さらには個別事業がもつケイパビリティー、競合との差別化ポイント、生活者をはじめとしたステークホルダーが自社や業界に求めるものを洗い出したうえで、自社の提供価値や“らしさ”を示せるキーメッセージを導き出していく。この過程は、これ以降の検討の土台となる部分であり、最も重要なプロセスとなる。またインナーブランディングを進めていくうえでも、この段階から社員を巻き込んでおくことが有効となる。このため、社外の協力も仰ぎ、十分な検討材料を用意することが重要だ。さらに、社員を巻き込んだワークショップを実施することで、社員にとって納得感があり、手触り感のある「自社が目指すべき姿」「伝えるべき提供価値」を検討することが望ましい。
問い直し(3):設定した目指す姿は本当に目的につながるか?─実行に移る前に立ち止まって検証すべきこと─
企業ブランディングの目的を設定し、自社の目指す姿・提供価値を言語化した後に重要になるのが、「問い直し」の調査である。ブランディングの実行に移る前に、立ち止まり検証しておくべき観点が、図4で示す3つである。
第一は、ブランディングによって自社が目指す姿や提供価値が対象のステークホルダーに伝わったとしても、その結果が最初に設定した目的の達成につながるのか、ということである。たとえば、採用を目的に掲げながら「共感」を軸にしたメッセージを発信した場合、求職者に共感はされたとしても「自分が働く場としては求めていない」と感じれば、目的に直結しない。企業ブランディングは「伝わった」で終わりではなく、「伝わった先にどう行動が変わるか」という核心について、検証することが不可欠である。
第二は、設定した目的を達成する上で、本当に「企業」を主語にしたブランディングを展開するのが最適なのか、ということである。認知や態度の醸成といった目的であっても、製品ブランドのほうを前面に出したほうが効果的なケースは少なくない。極端な場合、社会的認知を持つ商品ブランドに企業名を合わせる、いわゆる「ブランド統合」の選択にまで至ることもある。また、ホールディングス主体で「グループ」として訴求すべきか、それとも事業会社単位で進めるべきか、という論点が発生することもある。ブランディングの主語が本当に「企業」であるべきなのかは、改めて検証する必要がある。
第三は、ステークホルダーがどのようなプロセスをたどって目的の「行動」に行きつくのかを把握することである。これは、上記2つの観点を検証するうえでも必要となる。商品やサービスを購入もしくは利用する際の行動パターンは時代とともに変化する。たとえば、図5で示す生命保険の検討をする際の行動プロセスは、ここ5年でも変化していると考えられる。このように、情報収集の手段や接触チャネルの変化によって、どのタイミングで企業が意識されるかも変化していると考えられる。この変化は推測が難しく、調べなければ見誤るリスクがある。ここを正しく押さえることが、その後の適切なKPI設定の成否にも直結してくるのだ。
