購買と“ブランドラブ”をどう両立すればよいのか
MarkeZine編集部(以下、MZ):顧客との質の高いコミュニケーションの実現は、ブランドにとって長く大きなテーマです。dentsu Japanとして様々なブランドの支援をする中で、昨今はどのような悩みを抱える企業が多いと感じていますか。
田中:ブランド認知の接点やタイミングが複雑化しているため、それを購買にどうつなげるかが課題になっています。一方で、販促を強化すると、ブランドのメッセージを伝えることが難しくなりがちです。この購買と“ブランドラブ(顧客のブランドへの愛着や好意度)”を両立させることが大きな課題です。
そのカギとなるのがパーソナライズドコミュニケーションです。しかし、マーケティング施策を設計する際に、「誰に」「何を」というポイントが曖昧なまま進めているケースも実は少なくありません。
シニア・マーケティングコンサルタント 田中紀美恵氏
土屋:ユーザーの行動データを把握できる環境が整ってきた中、「どのデータをどのように使うのか」という戦略の組み立て方が課題になっています。分析ツールも数多くありますが、それらの違いを理解するための情報や知見が十分でないと悩む企業も少なくありません。
パーソナライズドコミュニケーションを実現するためには、一人ひとりのユーザーを深く知ろうとすること、ユーザーがつながり続けたいと思える関係性を作ることが、データ活用における重要なポイントとなります。
藤田:「お客様とつながる施策」を求める企業が増えています。田中の指摘にもあったように、販促を目的としたプロモーション施策であっても、“オトクな訴求”だけでなく、ブランドとして伝えたいメッセージも訴求することが求められています。売り上げにつながるかどうかと、ブランドメッセージの最適なバランスの実現が大きな課題です。
MZ:そのような課題に対応するためには、どうすればよいのでしょうか。
田中:ハード面から考えるのではなく、まずは目標を明確にして施策に落とし込むことが必要です。この後お話しするプロジェクトも、LINE公式アカウントの立ち上げを起点にしたわけではありません。目標を実現するために必要な手段を考え、その結果、LINEを用いた施策を設計しました。
「毎日をハッピーにする」ジョージアのLINEを活用したコミュニケーション
MZ:今回の取材では、日本コカ·コーラの展開するコーヒーブランド「ジョージア」の取り組みについてうかがっていきます。
田中:取り組みでは、ジョージアブランドとしては、「ココロとカラダが自分のペースで前向きになる。」というコンセプトが出発点。LINEは、そこをベースに「一人ひとりに合った、毎日のちょっとしたハッピーをお届けする」目的で、LINE公式アカウントの施策を設計しました。2025年2月にLINE公式アカウントを開設し、毎週月曜の朝にクーポンを配信しています。
ただクーポンを配布するのではなく、嬉しい気持ちを感じられるその人に合ったメッセージを一緒にお届けしています。「コーヒーを飲みながら、1日をハッピーに過ごしてほしい」という思いを込めています。
加えて、ブランドアンバサダーであるAdoさんのコンテンツもユーザー体験の観点で作り込みました。Adoさん公式のLINEスタンプの他、ユーザーの気分に合わせたプレイリストやメッセージなどのコンテンツを配信。ジョージアのLINE公式アカウント上でありながらAdoさんのアイコンからメッセージが送られてくるギミックなど、細かい部分まで「体験」を大切に設計しました。

MZ:Adoさんを起用した理由をお聞かせください。
土屋:ジョージアブランドではより幅広い層、特に若いお客様を増やしていきたい課題がありました。そこでブランドの象徴として、若年層の認知が高く、変幻自在な7色の歌声を持ち「一人ひとりの自分らしくいたいニーズ」にチューニングすることができるAdoさんを起用したコミュニケーションを開始することとなりました。
シニアアカウントプランナー 土屋賢哉氏
MZ:メッセージとクーポンを毎週月曜の朝に配信する狙いもお教えいただけますか。
藤田:ペットボトルコーヒーは、持ち歩いたりデスクの横に置いたりしながら何度かに分けてゆっくり飲めることが魅力です。朝に購入いただき、1日のお供にしてもらいたい。前向きな気持ちで1日を過ごせるように、背中を押す存在になりたい。そのリズムを一週間の最初の月曜日に作りたい。そんな思いを込めた設計にしています。

