米国のリテールメディア市場の成長
郡司氏は、小売業へのDXやデータ活用による収益改善の支援などを行っており、海外を含めて年間500店舗以上を視察体験している。国内外のリテールメディア事情にも詳しい郡司氏が、昨今リテールメディアが注目される背景を共有した。
まず郡司氏は、米国でのリテールメディア市場が大きく成長していることを指摘。特に「Amazonの検索連動広告が伸びていることが大きい」と説明する。
米国でのリテールメディア市場はAmazonがシェア約75%を占め、次にウォルマートが続く。この2社がリテールメディアとして成果を出せるのは、ECプラットフォーマーとして圧倒的なシェアを持っているからだ。郡司氏は「メーカーが新規顧客を獲得したければ、広告を出すほかない」と言い、米国ではリテールメディアがメーカーの売上に直結している現状を指摘した。
米国のリテールメディアはオンラインの売上に効果を発揮している一方で、リアル店舗での売上に貢献している例は少ない。Amazon Freshなどの店舗では紙の広告が中心になっている。また、ウォルマートの店舗のデジタルサイネージも来店者に注目されていない様子だ。
「サイネージ広告で強制視認を生んでも、顧客の興味を引けなければ売上にはつながりません。実店舗でリテールメディアを活用する際は、売場との連動が不可欠です」(郡司氏)
店舗での購買が主流かつ、多様な小売事業者が存在する日本では、リテールメディアの活用の方向性は異なってくるだろう。
フルファネルでアプローチする東急ストアのリテールメディア
では、日本ではどのようなリテールメディアの展開が見られるのか。
リテールメディアの先進企業として、特徴的な取り組みを行っているのが東急ストアだ。顧客とのリアルな接点とデータを活かし、フルファネルのメニューを提供している。東急ストアのリテールメディアが目指すコンセプトは「広告出稿効果の購買リフト検証にとどまらず、メーカー様へ価値あるデータを提供すること」だという。
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山口氏は、「リテールメディアはメーカーさんに広告出稿してもらって、それによってマネタイズすることにフォーカスしがち。しかし我々は、出稿してくれたメーカーさんにどれだけリッチなデータを返すかに重点を置いている」と強調した。
東急ストアはPOSデータやID-POSデータはもちろん、購買プロセスに関わる豊富な情報を店舗やLINEを通じて取得している。「こうした1st Partyデータを組み合わせてレポートとして提供することが、リテールメディアの重要な価値だ」と山口氏は言う。
東急ストアは、消費者との多様な接点を持っている。スーパーマーケットの店舗をはじめ、駅の売店やネットスーパー、東急電鉄が運営する交通機関や施設などだ。この接点の多さを活かして、店舗への来店前・来店中・来店後のあらゆるタッチポイントをカバーする多様なリテールメディアを展開している。
実際の広告商品として、山口氏は「外部デジタル広告」や「駅の売店のラッピング」「東急グループOOH」「店頭のデジタルサイネージ」などを列挙した。
デジタルサイネージは全国83店舗で563台設置されている(2025年11月時点)。なかでも特徴的なのが、「入口消毒液付サイネージ」で、店舗の入店時に手指の消毒のために立ち止まるのを利用して、来店者の目にとどまりやすいサイネージを展開しているのだという。
人気の媒体は「レシートのフッター」だ。メーカーは、レシートの下の部分にアンケートや商品サイトへの誘導を広告として掲載できるという。
来店後の接点は、公式LINEやネットスーパーなどのオンラインでカバーしているほか、「データコネクティングサービス」も提供している。これは、東急の会員IDとメーカーの会員IDを紐づけて、顧客の購買状況をより詳細に追跡・分析できるようにするものだ。
実際に2024年からサントリーとの取り組みを開始し、東急ストア全店舗でのサントリーのアルコール商品購入者の分析を実施。これによって購買者のニーズや購買行動を把握し、ファン化のための施策に役立てられる。
