顧客起点マーケティングを実現するための3つの顧客分析
P&Gやロート製薬などでの経験、および470社を超える企業のサポートから得た知見に基づき、「顧客起点マーケティング」を提唱している西口氏。マーケティング知識全体の体系化を目指し、知識を厳選・体系化した学習サイト「Wisdom-Beta」でも多様な切り口での発信を重ねている。そんな氏が今回新たに提案したのは、顧客起点マーケティングのバックボーンにもなっているという「良い売上、悪い売上」の概念だ。
「この考え方は、これまで発表した理論の、いわば“OS”のようなものです。特に、AIの進化がもたらすビジネス環境の変化において、マーケターや経営者が持つべき根本的な考え方だと捉えています」(西口氏)
まず、西口氏は顧客起点マーケティングについて解説した。顧客起点マーケティングとは、市場を“マス”として捉えて不特定多数の顧客を狙う場合と、1対1を狙う場合の間にある、「最適解」を見出すこと。不特定多数では顧客が見えづらく、1対1のビジネスはスケールしない。そして両方とも、投資対効果は悪い。そのため、適切な顧客分析によって最適解を導くのが、経営とマーケティングの最終的な目標である。

この最適解を見つけるために、「5segs(ファイブセグズ)」「9segs(ナインセグズ)」「ID-POS分析」という3つの顧客分析がある。このうち「ID-POS分析」は、本セッションの下敷きにもなっている2025年10月刊行の書籍『良い売上、悪い売上 「利益」を最大化し持続させるマーケティングの根幹』で初めて明かされた。
顧客を「ロイヤル/一般/離反/認知未購入/未認知」の5層に分ける5segs、さらにNPI(次回購入意向)の軸を加えて9層に分ける9segsは、それぞれアンケート調査が必要だが、ID-POS分析は社内の顧客データを用いて行うことができる。これは5segs、9segs同様、BtoBマーケティングでも有効だという。
具体的には、まず単年と3年累計の顧客別売上ランキングを作成。単年・累計ともに上位の顧客、累計だと圏外へ移行した顧客、また直近で上位に登場した顧客などの購入履歴から、心理を推察していく。「自社商品にどういうきっかけで出会うと顧客がロイヤル化するのか、などが見えるようになる」と西口氏は説明した。

「利益を生み出す売上」と「利益につながらない売上」がある?
前述のフレームワークの背景にある最も根本的な考え方が、今回の主題「良い売上、悪い売上」だ。「良い売上」とは、継続的に利益に貢献する売上。「悪い売上」とは、一過性で利益に貢献しない売上を指す。
売上を単なる合計値で捉えず、良い売上と悪い売上に分け、前者を最大化し後者を最小化していくことが、どのような事業においても定石となる。西口氏は「短期的な売上には『悪い売上』が多く含まれている」と指摘した。
「たとえば、初めて購入した新規顧客の売上1万円と、10回買い続けている継続顧客の売上1万円は、同じ金額でも内訳がまったく違います。新規顧客の売上から、その新規獲得までにかかったコストを引くと、マイナスになることが多いのです。一方、何度もリピートしている継続顧客には、広告や営業活動も必要ありません。原価とわずかな販管費を引いた分が、利益になります」(西口氏)

重ねて西口氏は、今だからこそ「利益」を見ることが重要だと強調する。AIの進化により、今後、データとして取り込めるものはすべてAIが自動化し、分析・効率化していく。その際、どの売上も一緒くたに捉えて効率化すると、知らず知らずのうちに悪い売上を積み上げてしまうことにつながるからだ。
