偶発購買をする層をどう捉える?「トライブドリブンマーケティング」による分析と発見
MZ:具体的には、どのように偶発購買を設計していくのでしょうか。
門脇:偶発購買をする層を捉えることが重要ですが、ロイヤル層と違って彼らは「未知のターゲット」であるため、探すことは困難です。そこで、特定の軸や切り口で実際の生活者を深く理解するアプローチが有効となります。
ビールを例にすると、「久々にビールを飲んだ人」や「コラボデザインをきっかけにビールを手に取った人」の背景情報やインサイトを深掘りしていきます。こうした行動の背景を分析・可視化するため、SNS投稿を対象としたソーシャルリスニングを行います。
矢部:電通デジタルは、こうした分析手法を「トライブドリブンマーケティング(TDM)」というフレームワークへ体系化しました。トライブとは、共通の興味関心やライフスタイルを持つ集団のことを指します。
トライブを切り口としてSNSデータを読み解くことで、偶発購買をする「未知のターゲット」の解像度を高めることができます。従来のソーシャルリスニングが投稿内容の「何」に注目していたのに対し、それを投稿した「誰」まで深掘りできる点がTDMの特徴です。

矢部:TDMは、トライブを基点に分析する電通デジタル独自のマーケティングフレームワークで、目的に応じて大きく次の2つのアプローチを取ることができます。
- 虫の目:ピンポイントなトライブに属する生活者像をペルソナ化して深掘り
- 鳥の目:多様にあるトライブの特徴を横並びで比較し、ターゲットとなるトライブを分析
この「虫の目」「鳥の目」の両方からSNSデータを読み解くことで、ブランドやカテゴリーの周辺に存在する多様なトライブを発見し、深掘りできます。
主にSNSデータを対象とした分析や分析ソリューション構築をミッションとし、AIを活用した分析の精度向上や効率化にも取り組む。
TDMの虫の目分析:ペルソナを可視化
MZ:虫の目で見ると、どれくらい細かくターゲットを深掘りできるのでしょうか?
矢部:ビールを例に見ていきましょう。偶発的にビールを買う「未知のターゲット」トライブを知るため、「久しぶりにビールを飲んだ」と投稿をしたユーザーのプロフィール文や過去投稿をたどり、掘り下げていきます。
たとえば、あるユーザーは「週末ドライブが楽しみなゲーマー主婦」さんでした。投稿を分析すると、ドライブが好きで普段は車移動が多く、アルコールを飲める機会が少ないことが分かります。今回は家族が集まる特別な週末だったことで、久しぶりにビールを飲んでいた、というストーリーが見えてきました。
矢部:別のユーザーは「北海道ライフを楽しむウイスキー通」さん。日常的にはウイスキー関連の投稿が多く、ビールはお祝いごとや食事とのペアリングの時にだけ選ぶ傾向が明らかになりました。
こうした虫の目分析を通じて、ビールを偶発的に購入する人として、「特別な日にはビールを買う人」「食事に合わせてビールを買う人」といった、これまで見えていなかったペルソナ像を具体的に描き出すことができました。ここまで見えてくると、普段はビールを飲まない層をターゲットに、久しぶりに飲みたくなる家族が集まる週末やお祝いシーンを中心に添えた企画設計を行うアプローチが考えられます。
TDMの鳥の目分析:トライブを比較
MZ:より広い分析や、特徴・傾向を発見したい場合はいかがでしょうか。
矢部:先ほどは個々のユーザーを深掘りする「虫の目」の例をご紹介しましたが、マーケティングのプランニングには、トライブ全体を俯瞰して捉える「鳥の目」も重要です。ここでは新しいAIサービスを、「推し活」トライブに向けてアプローチする事例を紹介します。
一口に推し活といっても、その中には様々な趣味嗜好や活動スタイルがあり、どのようなタイプの推し活トライブとAIの親和性が高いのかを見ていく必要があります。そこで、AIサービスを使った感想をポジティブに書いているSNS投稿をTDMで分析。その結果、ITガジェットを愛好するトライブ、VTuberや二次元アイドル育成ゲームのファントライブ、ネットで活動するアーティストのファントライブなどが上位に現れました。
矢部:続いて、同じ投稿データを用途や文脈で分類しました。本格活用(情報発信のために使う)・雑談活用(遊びとしてチャットする)・画像生成(画像生成に使う)の3パターンに分けたところ、IT・ガジェットトライブでは本格活用に関する発話が多く、アイドルトライブは雑談系、ネットアーティストトライブは画像生成が多い、といった特徴が見えてきました。ここまで分かると、訴求施策や活用媒体も、トライブごとに設計しやすくなるのではないでしょうか。
矢部:このように、TDMではSNSのリアルなデータから、個々の生活者を深掘りする「虫の目」と、複数トライブを比較・俯瞰する「鳥の目」の両方の視点で分析が可能です。

