“検索より回遊”が進む。変容する消費者の行動
MZ:はじめに、昨今の消費者行動の変化や潮流をどう見られているかお聞かせください。
門脇:情報収集の方法自体が、明確に変わっていると感じます。生活者は目的を持って検索するのではなく、「なんとなくSNSをスクロールしている」中で気になる投稿に出会うといった“目的のない回遊”を日常的に行うようになりました。また、知りたいことがあれば検索よりもAIに聞くなど情報接触や購買までの流れが多様化し、「課題を認識し、調べて買う」という従来型のファネルでは生活者を捉えきれなくなっています。
門脇:こうした変化にともない、企業側にも「これまでと同じ施策を続けるだけで良いのか」という漠然とした不安が生まれています。売り上げ目標は達成しているものの、消費者の行動が変わりつつある昨今、次の一手や新しいアプローチが必要ではないかと相談いただくケースが増えていますね。
クリエイティブストラテジストとして、コーポレートブランディングやパーパス・CIVI策定および広報業務に取り組む。SNSを基点に商品・サービスの衝動買いを設計する、「偶発購買マーケティング」のアプローチを開発。
MZ:電通グループが提唱する「AISAS」のような購買行動モデルも変化しているのでしょうか。
門脇:その通りです。従来は認知から興味、検索、購買まで進むファネルを前提にしていましたが、今はSNSで偶然目に入った情報からそのまま購買に至るケースも増加しています。そこで電通グループでは2024年12月、偶発購買デザインモデル「SEAMS(シームズ)」を新たに提唱しました。Surf(回遊)、Encounter(遭遇)、Accept(受容)、Motivation(高揚)、Share(共有)という5つのプロセスで、偶発的な購買行動をより実態に近い形で捉えようとするものです。
偶発購買はどの商材にも起こる?SNS時代の衝動買いメカニズム
MZ:偶発購買について詳しく教えてください。
門脇:従来のAISASの“計画購買”と対比する形で、SEAMSを“偶発購買”と名付けました。偶発購買のポイントは3つあります。
1つ目は、「検索より回遊」です。ネットを回遊する中で偶然ブランドや商品に出会い、ストレートに購買に至るケースが増えています。2つ目は、計画購買と偶発購買は混在している点。生活者は、計画的に情報を集めるプロセスと、偶発的に出会って購買行動が動くプロセスを行き来しています。3つ目は、ブランドが自然と話題にのぼるPGC(Professionally-generated Content:企業が制作したコンテンツ)をいかに作れるかです。
MZ:偶発購買は、生活者が偶然出会うのを待つのではなく、企業側で生み出せるということでしょうか。
門脇:はい。カギとなるのは、企業やブランドが発信した情報を生活者がどう受け取り、いかに解釈して個人の投稿やUGC(User-generated Content:ユーザーが生成したコンテンツ)につなげるかまで見据えたPGC制作メソッドを設計することです。これをマーケティング発想で型化したのが「偶発購買マーケティング」です。
また、偶発購買を“衝動買い体験”と捉えると、特定の世代や商品に限らずどのような層・商材でも幅広く起こり得るという前提に立つ必要があります。例として、コンビニでのビール購入では、継続購買が65.1%、計画購買が9.3%に対し、偶発購買が25.6%を占めています。「気に入ったキャラクターとのコラボデザイン缶を見つけて思わず購入する」といった偶発購買が3割弱起こり得る、典型的なケースですね。
門脇:一方で単価の高い商材でも、レビューなどのUGCをきっかけにブランドスイッチが起きることがあります。たとえば基礎化粧品カテゴリーでは、13.1%が偶発購買という結果が出ています。こうしたデータからも、価格帯の高低に関わらず偶発購買は広く発生していると捉えられます。

