3.注目セッション:PelotonとWendy’sから学ぶデジタルと人間的接点の融合
Forge 2025では、リテール、飲食、フィットネスなど多様な業界からリーダーが登壇し、具体的な顧客エンゲージメント戦略を共有しました。ここでは、PelotonとWendy’sの事例を中心に、データと創造性を融合させる方法を解説します。
Peloton:統合データと技術スタックの簡素化
Pelotonの顧客エンゲージメント戦略は、ShopifyとBrazeの統合によるデータの一元化と技術スタックの簡素化に焦点を当てています。
筆者が長年注目しているPelotonは、アパレル事業とコア事業のデータを一体化し、統一されたデータモデルを採用しました。このような異なる顧客提供価値(アパレルとオンラインフィットネス)を組み合わせた顧客データ理解ができることが彼らの強みとも言えます。また興味深いのはBrazeを活用しこれらのデータを活用したマーケティング活動を行うことで、そもそものデータの冗長性が削減されたというのです。
企業としては事業・サービスはサイロ化されていますが、顧客体験という視点からデータを見直すことで、リアルタイムでの顧客エンゲージメントが強化されたとのことです。特に、SMS配信を旧システムからBrazeへ移行し、Shopifyのデータを活用したセグメント別キャンペーンを実施した結果、オーディエンス規模を92%削減したにもかかわらず、高いコンバージョン率を維持するという大きな成功を収めたとの報告がありました。

これは、単に多くの顧客にメッセージを送るのではなく、「Less Data, More Meaning」(データ量を減らし、意味を深める)という原則に基づき、真にメッセージが響くターゲットに絞り込むことの重要性を示しています。
Pelotonのチームは、テクノロジーチーム以外の全関係者に対してBrazeなどのツールの機能について教育を実施し、「既存ツールを最大限活用する文化」を定着させることを徹底しています。そうすることで、実践しないままマーケティング部門からの不要なカスタム開発依頼や、ツール見直し要望を防ぎ、徹底したBrazeの利活用でROI向上を実現しました。
もちろん彼らも長期的な顧客関係構築のためには、データリテラシー(Data Literacy)と共感(Empathy)が不可欠であることも話をしていましたが、Pelotonから学ぶことはデータのサイロ化を無理やり統合するよりも、少ないデータ(整理されたデータ)から顧客のインサイト(Meaning=顧客の置かれている状況)を把握するかがいかに重要であるかを示す好事例と言えるでしょう。
Wendy’s:AIによる効率化とHuman Touchの維持
Wendy’sのセッション「The Human Recipe for Loyalty」では、デジタル技術と人間的な接点をいかに融合させてブランドロイヤルティを強化するかが議論されました。
Wendy’sチームは、アプリ、Webサイト、キオスクを含む全顧客接点において、ブランドの持つ「本物らしさ、大胆さ、遊び心」という、Wendy’sが体現したいブランド・パーソナリティを一貫して維持、体現することへの挑戦を理解することができました。
彼らは、ゼロパーティ、ファーストパーティ、サードパーティデータを統合し、RFMモデルや商品親和性データ(どの商品とどの商品の組み合わせが顧客に受け入れられるか)に基づいて顧客体験をカスタマイズしているとのことです。このプロセスにおいてもAIが重要な役割を果たしているようです。AIはクルーの業務効率化支援として手作業で煩雑なタスクを自動化することにも用いられています。このあたりはNRFやShoptalkといった小売業、サービス業のマーケターが集まるカンファレンスでもメイントピックになっています。つまり、AIの利活用によっていかに、小売業やサービス業の現場に従事する人材が中核業務や顧客接点の維持に集中できるかにテクノロジーが活用されなくてはいけないかの証左とも言えます。
Wendy’sは、マーケティングキャンペーンでも成果を上げており、NCAA(全米大学体育協会バスケットボール)トーナメントの予想をロイヤルティプログラムと連動させた「Fresh Picks March Madness」キャンペーンでは、1,000万以上のアプリ内インプレッション、55万の新規デジタルアカウント獲得という顕著な成果を達成し、Brazeの年間最優秀キャンペーン賞を受賞しました。
彼らからの学びは「小さく始め、学び、拡大せよ」 です。
この話を聞くと大規模なデジタルマーケティングやAI活用を実践しているように思いますが、彼らも失敗と成功を繰り返しながら、PoCの実践を行っています。ただPoCにとどまることなく、いかにPoCからの学びをマーケティングの成功、顧客エンゲージメントの強化につなげるのかという絶え間ない挑戦を実践しています。AI導入も同様のようです。最終的に評価されるのは、精度や効率性向上など明確なビジネス目標に結びつけることが不可欠なのです。AIやマーケティング・オートメーションは真に結果、成果を求められる時代と言えるでしょう。

