ファイントゥデイが考えるリテールメディア活用
南口:本日は「日本市場の構造から考えるリテールメディアの最適化」というテーマで、ファイントゥデイさんとDearOneのパネルディスカッションを行ってまいります。はじめに両社、事業概要の紹介をお願いできますか?
益川:ファイントゥデイの日本事業部でヴァイスプレジデントを務めている益川と申します。ファイントゥデイは、パーソナルケア製品のマーケティング・販売などを行っている会社です。資生堂からパーソナルケア事業を引き継ぐ形で2021年7月に設立し、TSUBAKI、fino、Senka、unoといった代表ブランドがあります。
川村:DearOne執行役員の川村です。DearOneはNTTドコモが筆頭株主で、スマホアプリの開発を事業として行ってきました。非公開のアプリも含め200以上のアプリ開発、運用事例がございます。
2023年9月には、それらのリテール公式アプリにある広告面を束ね、流通横断で広告配信が可能なリテールメディアプラットフォーム「ARUTANA(アルタナ)」の提供も開始しました。本日は、ファイントゥデイさんの「ARUTANA」活用について、お話しできればと思います。
広告か、販促か?リテールメディアの効果検証の難しさ
南口:ではさっそく本題に入りたいと思います。1つ目のテーマは「メーカー目線でのリテールメディアの課題とジレンマ」です。益川さんは、リテールメディアの特徴をどのように捉え、現状どのような課題を持っていますか?
益川:リテールメディアの特長の一つに、「広告」と「販促」を繋げられるという点があります。購買前や購買の瞬間に想起率を高める広告としての機能もありながら、店頭で購買を後押しする販促の機能もあり、さらにリピート購入を促すCRMのような施策もできます。従来は「購買前」「購買」「購買後」で分断されていましたが、リテールメディアはそれらを繋げることができるわけです。よって、重要な顧客接点であると考えています。

ただ、リテールメディアも万能ではなく、「一貫して評価できない」という課題があると考えています。たとえば、「購買前」の広告効果にフォーカスすると、どうしても通常のデジタル広告やテレビに比べてリーチが少ないと評価されてしまいます。また「購買の瞬間」については、広告効果と販促効果の両方が期待できるので、どちらの指標で評価するか、広告費と販促費どちらの予算をあてるのかといった問題が出てきます。
購買の瞬間にユーザーと接点を持てるのでCV率は高く、販促施策としては一定評価できるのですが、広告として考えるとリーチの規模や費用対効果の懸念が出てきてしまうのです。

南口:そうですよね。そういった効果検証や営業とマーケティングの組織をまたいだ予算調整については、多くのメーカー企業様からお悩みを聞きます。
益川:また、たとえばシャンプーや洗顔などの日用品は、リテールメディアで広告を見た人が「良いな」と思ったとしても、昨日新しいシャンプーを購入したばかりだったら購買には至りません。次の購買タイミングは2~3ヵ月後になってしまうでしょう。そうなると、販促としては即効性が低くなってしまうので、そこをどう評価していくかもポイントです。
南口:それでは、ファイントゥデイでは、リテールメディアの予算をどう考えているのでしょうか?
益川:一般的に、小売企業様からリテールメディアに関するお話をいただくのは、やはり営業部が多いと思います。ですが、営業部における通常の販促費と比較すると、リテールメディアは費用が高いため出稿に二の足を踏んでしまう。片やブランドマーケティングの部門でも、広告としては規模が足りないため、リテールのメディアには手が出にくい……こうした状況になりがちです。
そこで、弊社ではトレードマーケティング部がリテールメディア予算の管理と運用をしています。営業部としてもマーケティング部としても、リテールメディアの優先順位が上がりづらい状況ですが、リテールメディアは重要だという認識は共通しているので、中間部門が予算を持つ体制にしています。
メーカー企業の最大の悩み「流通横断の配信」を可能に
南口:ここまでメーカー目線でのリテールメディアの課題とジレンマについて伺ってきました。益川様のお話は、私たちが日々接しているメーカー様に共通する非常にリアルな悩みだと感じます。
多くのメーカー様が課題として挙げるのは、「データ」「配信タイミング」「広いリーチ」の3点です。また、メーカー側でリテール個社ごとにリテールメディア施策を最適化していくというのは、なかなかハードルが高いですよね。「リテールを横断してアプローチできない」という点は日本市場の構造的な課題であり、メーカー様が一番悩まれているポイントです。
そうした業界の課題を踏まえて、DearOneはリテールメディアプラットフォーム「ARUTANA」を展開しています。川村さん、「ARUTANA」の説明をお願いできますか?
川村:「ARUTANA」は、Advertisingを、Retailを通じてUniqueに配信可能なTANA(棚)という意味です。様々なリテール企業と提携し、広告の一括配信を可能にすることで、広いリーチと高い広告・販促効果を出せるプラットフォームとなっています。現在、累計MAU数4,750万、インプレッション数が4億5,300万に達しており(2025年11月時点)、直近では大手コンビニエンスストア様にもご参画いただいています。

リテールメディアが「購買」に寄与する理由
南口:「ARUTANA」はどのような点から、購買に貢献するでしょうか?
川村:リテールの公式アプリは、75%が店内で起動されます。つまり、購買に非常に近いタイミングでアプリが開かれる傾向にあるため、購買行動に繋がりやすいというポイントがあります。また、リテールの公式アプリを使用しているユーザーはロイヤルカスタマーが多く、購買のポテンシャルが高い層へリーチできるのも特徴です。
もう一つ、記憶する“物”と“場所”は同じであるほうが想起されやすいという「環境的文脈依存効果」もあります。皆さんも、家で醤油を切らしていることに気づいて、スーパーに行ったのに、結局醤油を買い忘れて帰ってきてしまった……といった経験があるのではないでしょうか? つまり、想起させたい商品は、その場(店舗)で訴求したほうが効果が高いということです。
ファイントゥデイの新ブランド「+tmr」でROAS272%を実現
南口:今回、ファイントゥデイ様にも「ARUTANA」を活用して、広告を配信していただきました。実施した施策について、ご紹介いただけますか。
益川:リテールメディアはリーチ規模に課題があるとお話ししましたが、その観点からも複数のリテールを横断してリーチできるのは魅力的だと思い、「ARUTANA」をトライさせていただきました。配信したのは、「+tmr(プラストゥモロー)」というヘアケア新商品の広告です。
ファイントゥデイでは、認知、関心・興味、理解、体感、店頭購買(トライアル)、リピート、口コミという循環型のコミュニケーション構造を設計しています。この中で、店頭で購買いただくためのアプローチは、配荷や定番棚への陳列までに留まっていました。

購買の瞬間で広告と販促を行えるメディアは、リテールメディア以外にありません。最後にもう一押しする目的で「ARUTANA」を活用し、複数の流通企業で広告を配信しました。具体的には、過去購買者、同価格帯のシャンプーカテゴリの購買者へのターゲティング配信を行い、リピート購入やブランドスイッチを促しました。

南口:配信結果はいかがでしたか?
益川:配信結果は良好で、ROASも272%という高い数字が出ました。購買が起きそうなタイミングを狙った配信が効果的だったと考えています。また、これはID連携できるリテールメディアだからこそですが、提供いただいた詳細なデータを活用した分析や議論も十分に行うことができています。
広告効果の高さに加え、活用して感じた「ARUTANA」の特長は、複数の流通企業を横断して配信できるという「運用効率の良さ」です。たとえば、5社のリテールメディアで広告を配信したい場合、通常であれば5社それぞれで出稿の作業が必要になります。しかし、それを一括で対応いただけるという効率性のメリットを強く感じ、さらに配信規模を広げて活用させていただいています。
川村:「+tmr」は新商品ローンチのタイミングでの広告配信だったので、ブランドスイッチが起きる瞬間をしっかり捉えられたというのが成功要因だったと考えます。さらに、メディアミックスにプラスして、店頭施策もしっかりと実施されていたので、店頭での購買に繋がりやすかったのではないでしょうか。
上流から下流まで。「ARUTANA」が創るOneIDで繋がる世界
南口:統合的なマーケティングを行っていらっしゃるファイントゥデイ様ですが、今後どのような取り組みに注力されていきますか?

益川:長年活用してきたマスメディアの効果が低下してきている中で、どのようにお客様との接点を作り、好意を持っていただくかは、継続的に考えていかなければならない課題です。
また、特定の流通企業でのみ購買するということはあまりないのが日本市場の特徴です。圧倒的なシェアを持つ流通企業が存在しないため、複数の流通企業で購買されるという行動を前提に対応していく必要があります。様々なメディア、様々な店舗が存在する中、効率的にお客様との接点を作っていくことを考える上で、購買の瞬間にアプローチできるリテールメディアには、今後も注目していきたいと考えています。
リテールメディア以外の様々なサービスやソリューションもウォッチしつつ、メーカー企業とのコラボなどにも積極的にトライしていきたいです。
南口:川村さん、DearOneはそういったメーカー企業様のマーケティングをどのようにサポートをしていきますか?
川村:DearOneは、国内すべてのリテール企業様にアプリの広告面で「ARUTANA」を導入いただくことを目指しています。
連携している各社のデータを連携した統合基盤を構築し、OTTやSNSなど各媒体への広告配信に繋げていく。そして、それらをNTTドコモのIDと紐づけることで、上流から下流までOneIDで広告を分析できる世界を実現していきたいと考えています。
今後は、テレビ視聴データとも連携する予定です。広告IDとテレビ視聴データ/広告IDとARUTANAの購買データを突き合わせることで、CM視聴者が実際に商品を購買したのか、広告効果を分析することができるようになっていきます。
多くのリテール企業様にDearOneにご参画いただき、このOneIDの世界を共創していければと思います。
販促施策にも認知施策にも最適なリテールメディア
複数のリテール公式アプリに一斉に広告配信ができ、購買タイミングに届く × 購買データで効果検証が可能です。出稿効果がID-POS連携でレポーティングもできます(購買数・ROAS)。本記事で興味を持たれた方は、ぜひARUTANA公式サイトよりご相談ください。

