検索されない、許可されない、追跡できない時代へ
マーケティングを支えてきた3つの前提──「検索する」「許可する」「追跡できる」。この基盤が2025年以降、世界的に崩れつつある。
AI検索の普及によって、生活者が検索行動を行う前にAIが情報を統合し、最適な選択肢を提示するようになった。サードパーティCookieは実質的に消滅し、あらゆるブラウザでの追跡が難しくなった。SNSでも、可視化されない“非公開チャネル”での情報共有が拡大している。さらに、Z世代以降は、同じ人物であってもSNSやコミュニティごとの『界隈』によって人格や行動を使い分けるため、「典型的なユーザー像」を想定する従来のペルソナ設計は機能しにくい。
こうした構造変化の中で、海外では既存のマーケティングモデルを補うのではなく、根本から再定義しようとする新しい概念が登場している。本稿ではその中核となる3つの考え方――Algorithmic Personas(アルゴリズム生成型ペルソナ)/Generative Demand(生成型需要創出)/Permissionless Marketing(許可不要型マーケティング)――を紹介する。
これらは単なる新語ではなく、ターゲティング・需要創出・顧客体験というマーケティングの根幹を再構築する思想であり、ポスト検索時代に不可欠な視点を提供している。
【概念1】Algorithmic Personas:ターゲットは「設定する」から「見えてくる」ものへ
ペルソナ設計は長らくマーケティングの基本プロセスとされてきたが、その前提は現実と乖離しつつある。生活者の行動はチャネル横断的で一貫性がなく、時間帯・状況・気分によって変動する。にもかかわらず、企業側は固定的な“架空の人物像”を設定し、それに合わせて施策を組み立てている。
Algorithmic Personas(アルゴリズム生成型ペルソナ)は、このズレを前提にした発想だ。膨大な行動データからAIが自動的にクラスタを生成し、ユーザーの“行動型ペルソナ”を動的に浮かび上がらせる。
たとえば、同一人物でも、「仕事中は価格重視だが、夜はブランド重視」「美容カテゴリーでは慎重だが、日用品では即決」「比較検討の仕方が曜日によって異なる」といった“揺らぎ”を機械学習が抽出し、数十〜数百のクラスタに自動分類していく。従来の「35歳女性・都内在住・情報感度が高い」といったデモグラ中心の人物像とは異なり、行動文脈と意思決定パターンが核になる。
このアプローチの利点は2つある。第1に、“固定化された誤った前提”によってマーケティングが歪むリスクが減ること。第2に、広告・Web接客・CRMなど複数チャネルに一貫性のあるターゲティングが可能になることだ。ターゲットは人間が“考える”のではなく、データから“浮かび上がる”存在へと変わりつつある。
実践イメージ:D2Cアパレルブランド
とあるD2Cアパレルブランドでは、従来「20〜30代のミニマル志向女性」がメインターゲットとされていた。しかし、AIがアクセスログと購買履歴をクラスタリングした結果、「平日は価格比較+週末だけ高単価商品を買う」クラスタが浮かび上がった。
この発見をもとに、「平日はリーズナブルな新作情報」「週末はスタイリング提案」とコミュニケーションを分けたところ、週末のCVRが向上。ここで重要なのは、人間が設定したペルソナでは想像できない行動分岐をAIが可視化した点だ。
