顧客層の高齢化やリピート率の伸びに悩む
ほっかほっか亭は1976年の第一号店の創業以来、のり弁当を世に広めた中食のパイオニアとして知られる。現在は西日本を中心に約700店舗を展開。2026年6月に節目の創業50周年を迎えるにあたり、第二創業の位置づけで改革に取り組んでいる。価格と商品力を武器にしてきた老舗ブランドが今、スーパーやコンビニをはじめ競合ひしめく市場環境に向き合っているのだ。
同社はマーケティング活動がうまく機能している企業へのヒアリングを重ねる中で、自社の戦略を見直していった。特に印象的だったのが吉野家の取り組みで、コトラーが提唱した消費者行動モデル「5Aポジショニング」を起点に、マーケティング戦略を再設計した事例だったという。
ほっかほっか亭の現状を分析した結果、三つの課題が浮き彫りになった。第一の課題は、主要顧客層の高齢化だ。ブランドの歴史が長くなるにつれて既存顧客層が高齢化し、Z世代やアルファ世代において認知が十分に広がっていなかった点が共有された。
第二に、IPとのコラボ商品や新メニューを投入しても、リピート購入につながりにくい課題を挙げる。売上は一瞬だけ盛り上がるものの、すぐ元に戻ってしまうという。第三の課題が、原材料費の高騰だ。米・鶏肉・卵など主要食材の価格上昇が続き、利益構造を圧迫。顧客が満足する価格で商品を提供することが難しくなっている。
非効率だったマスマーケティングを中止
これらの課題を受けて、同社は旧来型のマスマーケティング施策を一旦見直し「低予算でも伸びる話題化」と「顧客との継続的な関係を生む1to1コミュニケーション」を掛け合わせた新たな戦略へと舵を切った。
新戦略では「話題化」を起点に、顧客一人ひとりのファン化を目指した。施策を通じて“ワクワク感”を醸成することにより、エンゲージメントを高めて継続購買を促す狙いだ。この戦略の中心に位置づけたのが「ほっかアプリ」だった。
ほっかアプリは、商品をスムーズかつ楽しく購入できるよう設計されている。「購買のしやすさ」と「体験価値」の両立が、同社の競争優位性につながるという考えだ。
「エッホ エッホ」2,600万impを獲得したXの投稿
話題化戦略の入り口を担うのがSNSだ。「ほっかほっか亭という名前は知っていても、それだけで来店行動にはなかなか結びつかない。その壁を越えるきっかけを作ることが、話題化の目的」と同社の平尾真一氏は語る。
2025年2月、同社がXに投稿した一つの画像が大きな反響を呼んだ。当時SNSで流行していたネットミームに乗っかり、唐揚げの写真を加工して投稿したものが2,600万インプレッションを獲得。ネットニュースでも取り上げられ話題化した。
「成功要因は投稿スピードの早さです。当社では必ず社内チェックを経てから担当者が発信しているのですが、SNS担当者と決裁者の距離が近く、アイデアが上がるとすぐに判断できる体制があります。このスピード感があったからこそ、ミームの話題がホットなうちに投稿できたのです」(平尾氏)
2025年10月には、5,600万インプレッションを記録した投稿も生まれた。「ほっかほっか亭のロゴの書体を作った人を探しています」という内容だ。
50周年に向けて広報チームがオリジナルフォントの制作を進める中、担当者の「そもそも元のロゴを作ったのは誰なのか」という素朴な疑問が起点となった企画だった。投稿はテレビ番組『探偵ナイトスクープ』で取り上げられ、テレビ取材も相次ぎ話題化に寄与した。
「普通の会社なら、そのまま埋もれてしまいそうな疑問でした。それを全社的な企画にまで育てられたのは、組織の風通しの良さと意思決定の早さがあったからです」(平尾氏)
低予算ながらバイラルを生む話題化の強さは、ブランドの認知拡大だけでなく、その後のほっかアプリへの誘導にも貢献したという。
Brazeで実現した「モリモリチャンピオン決定戦」
話題化によってブランドへの関心を高めた後、個々の顧客との関係を深める役割を担うのが、1to1コミュニケーションだ。その実現にはデータとCRMツールの活用が不可欠である。
ほっかほっか亭では「Braze」を導入し、ほっかアプリを通じて蓄積した購買データをリアルタイムでBrazeに同期。顧客一人ひとりの属性や行動に合わせたメッセージを個別配信している。
顧客の楽しさやワクワクの創出においても、CRMツールの果たす役割は大きい。そのことを象徴する企画が「モリモリチャンピオン決定戦」だ。本企画では、人気商品である牛すき焼・牛焼肉のシリーズを1.5倍の肉盛りトッピングで購入した食数を競う。1,500名以上がエントリーし、500名が期間中に肉盛り弁当を食べ続けた。一位の参加者は50日間で39食を達成。毎日平均で2食以上のペースだ。
「アプリでは食数を示すランキングを毎日配信しました。個別に『あなたは今〇位です』というプッシュ通知を届けることでゲーム性を高め、参加者が楽しみながら競えるような工夫も。最終的に一位を獲得した方には、世界でたった一着の肉盛りTシャツをプレゼントしました」(平尾氏)
位置情報を基に近くの店舗と行楽スポットを提案
ほかには、位置情報を活用した企画「私をお花見に連れてって」も展開。近畿圏の花見スポットを特設LPで紹介し、ユーザーがスポットに近付くと、最寄りのほっかほっか亭を報せるプッシュ通知がアプリに届く仕組みだ。裏側ではBrazeが活躍している。弁当と花見の組み合わせを自然に提案するこの企画は、約1万2,000PVを記録した。
これを横展開した企画の第二弾が「私を花火に連れてって」だ。全国58ヵ所の花火大会の運営事務局から許可を取得し、全国規模の企画に拡大した。エリアごとに使えるクーポンも配布することで来店を促進。その結果、約5万PVと前回を大幅に上回る成果を上げた。
「ランキングで自分の順位を見たり、自身の近くにある花火や花見のスポットが届いたりすると、家族や友人につい話して共有したくなります。1to1の施策は、自然と話題化につながる設計になっている点も特徴です」(佐藤氏)
個別最適化された体験が口コミや拡散を生み、新しい顧客をCRMの循環に引き込む好例と言えるだろう。
ほっかほっか亭がBrazeを採用した理由について、平尾氏は「豊富な機能とサポート体制の厚さ」を挙げる。
「ジオマーケティング、条件分岐による個別メッセージング、マルチチャネル配信など、理想の1to1マーケティングを実現するために必要な機能がBrazeには揃っています。加えて導入・運用のサポートが充実していたため、導入後はスムーズに立ち上げることができました」(平尾氏)
Brazeの佐藤氏は、自社の強みを次のように語る。
「おもしろい企画があっても、データ連携が複雑で実現できないケースは多いです。その壁を突破する強力なプラットフォームを、当社では年間200億円規模の費用を投じて開発しています」(佐藤氏)
5つのマーケティングステップでPLを改善
マスマーケティングを控え、新戦略に基づいて全リソースを話題化と1to1コミュニケーションに集中投下した結果、ほっかほっか亭は広告宣伝費を前年比50%に抑えながら、既存店舗の売上で昨対比120%を達成。PL(損益)面で大幅な改善を実現した。
同社のマーケティングシナリオは大きく5ステップで構成される。入口のステップ1では話題化によってブランドの認知獲得を図り、ステップ2でアプリへと誘導。ステップ3ではアプリを基盤とした1to1施策を通じて来店・購入を促し、ステップ5でファン層を拡大する。このシナリオでマーケティング施策の費用対効果を最大化させているという。

ほっかほっか亭では2026年2月より「カスタマイズ弁当」を販売している。弁当に唐揚げやかき揚げなど好みの惣菜をトッピングして注文できる商品で、惣菜の組み合わせは数億通りに上るという。これも1to1施策の一環だ。
「カスタマイズ弁当によって、お客様一人ひとりの好みが精緻なデータとして当社に蓄積されます。そのデータが1to1マーケティングの精度をさらに高めるはずです」(平尾氏)
現在はマーケティング部が中心となって活用しているBrazeだが、今後は営業部門とも連携し、個店レベルで1to1施策を展開することも視野に入れているという。
「『話題化=新規獲得』『CRM=継続購買の促進』と単純に切り分けるのではなく、CRMを通じたワクワクする顧客体験が話題を生み、その話題が新たな顧客をアプリへと誘い込む。この循環が重要」と平尾氏。今後も試行錯誤を重ねながら、理想の形に近付けていきたいと展望を語った。

